Research Abstract |
生体組織や臓器および人工臓器の凍結保存実現のためには,組織を構成する細胞の凍結損傷機序の解明が重要である.従来から凍結に関する多くの研究は単離した細胞の懸濁液を用いて行われてきたが,単離した細胞と単層培養したシート状の細胞では凍結に対する耐性が異なるという報告もある.そこで,本研究では細胞の培養状態と形態の違いが細胞損傷に与える影響を明らかにすることを主な目的としている.本年度は,ヒト前立腺癌細胞PC-3を単離してNaCl水溶液中に懸濁浮遊した状態の細胞,およびコラーゲンコートしたガラス面上に培養して付着伸展した細胞とそれが密になって細胞間接着を有するコンフルーエント状態になったものの3つを試料として凍結解凍実験を行い,以下の結果を得た.なお,実験条件は,最低到達温度-10℃,冷却速度5または50K/min,加熱速度50K/minである. 1)冷却速度によらず単離細胞と付着細胞の凍結解凍後の生存率には優位差は認められない.また,冷却速度が50K/minのほうが5K/minの場合より生存率が低くなる. 2)コンフルーエント状態の細胞の生存率には冷却速度の依存性が認められない.また,コンフルーエントの細胞は単離細胞と付着細胞より生存率が有意に高く,特に50K/minの場合にその差が顕著である. 3)50K/minの場合には,単離細胞と付着細胞では約40%に細胞内凍結が生じ,そのすべてが損傷するのに対し,コンフルーエントでは約90%で細胞内凍結が生じるが,その大部分が生存する. 以上の結果,および昨年度までの結果を合わせると以下の結論を得る. 1)単離した細胞と孤立した培養細胞では脱水収縮特性にほとんど差がなく,凍結解凍後の生存率もほぼ等しい. 2)しかし,細胞間接着を有する場合には,細胞内凍結が生じやすくなるにもかかわらず生存率が有意に高くなる.したがって,致命的でない細胞内凍結は,細胞の凍結損傷を抑制する効果がある.
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