Research Abstract |
建設構造物の設計原理に性能設計の思想を導入する流れは,地盤構造物の耐震設計の分野においても顕著である。しかしここでは耐震性能とは地震後に残留する変形変位の大きさで表現されるので,性能設計においても地震荷重によって誘起される変位の予測が重要である。変位予測を実用化するためには,地震荷重下での土の変形特性を正しく把握しておかねばならない。本研究は,液状化対策工法の設計を念頭において,液状化して砂粒子間の接触力(有効応力)を喪失した砂の変形特性を実験的に測定したものである。従来この種の試みを繰り返しており,粒子間の接触力を小さくすべく,さまざまな試みを行ってきた。しかしいずれも2ないし3kPa程度の有効応力が下限であり,それ以下の状態では満足の行く測定ができなかった。これは重力場での実験の限界であり,砂や装置の自重のためにある程度以上の有効応力が発生せざるを得ないのであった。本研究では重力場での実験から脱して,立坑内で自由落下するカプセル内にせん断実験装置を格納し,自由落下時の無重力状態でせん断実験を行った。これのためには,まず無重力状態で遠隔操作できるせん断装置を製作すること,無重力状態でもせん断荷重を発生できる載荷装置を作ること,それらの寸法が自由落下カプセルに収まる大きさであること,という条件をまず,満足する必要があった。その作業が初年度の研究内容であった。 第二年度は,試作した装置を実際に使用して無重力せん断試験を行った。しかし初めの3回の実験は,失敗であった。失敗の原因は,初回の実験では砂試験体の剛性が予想以上に大きく,制作した載荷装置では変形が起こせなかったことであった。そこで載荷装置を作り直し,第二,三回の実験に臨んだ。しかしこれもまた失敗であった。原因は,実際の液状化地盤と同様に水で飽和した試験体を使用したところ,自由落下時のせん断変形にともなうダイレイタンシー体積膨張により水圧が負となり,無用の有効応力が発生して試験体が硬化してしまったことであった。水圧逸散用の排水経路は装備してあったのだが,わずか1.5秒の自由落下時間では水圧を逸散させることができなかった。そこで水の使用を断念し,間隙には空気しか存在しない乾燥試験体を使用した。これにより負圧の速やかな逸散と低い有効応力,という目的達成を優先したのである。このようにして最終的な実験に臨み,結果は成功であった。液状化した砂の変形特性は粘性流体に類似しており,その粘性係数は300ないし400kPa秒の範囲にあった。また低い有効応力における砂の内部摩擦角はおよそ70度であった。これは通常の応力場で知られている値より20以上大きく,かつてNASAのスペースシャトル中での実験から報告された値に近いものであった。得られた粘性係数によって河川堤防の液状化被害軽減技術の性能評価を行った。
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