Research Abstract |
本研究は,塩害に伴う地盤変状をシミュレートする飽和/不飽和土・水・移流拡散連成有限要素解析手法の開発とそれを用いた塩害軽減・修復技術の開発を目的としている.多くの「塩害→植生枯死→砂漠化」の地盤環境変状・地盤環境崩壊プロセスは,「森林の伐採」などによって,降雨などの供給水量と植生からの蒸散水量と地表からの蒸発水量のバランスが崩れ,塩害をもたらすと説明されてきた.一旦,地表面付近に塩分が析出すると,もはや少種の草木を除いて,植生は育成することができず,さらなる地盤の乾燥化を招き,砂漠化に至る.しかしながら,世界の多くの地で問題視される「塩害」は,このような単純なプロセス(一次的塩害)では収まりきらない.森林伐採は人類の生活圏の拡大に伴って生じる.例えば,タイの場合,新たな水田の確保のために森林が伐採された.水田への農業用水の供給は,ため池などの地上水からの供給ばかりでなく,地下水の汲み上げによっても補われている.降雨の少ない乾燥地ほど地下水への依存度は高い.地下水には,もともと希薄であったにせよ,塩分が含まれている.地下水への塩分の溶解は,その上流部もしくは地中深部に存在する塩岩層に起因していることが多い.塩分を含んだ地下水を地表に汲み上げることにより,乾季における蒸発によって塩分濃度が上昇し,さらなる塩害をもたらす.また灌漑水路などの建設は,塩分含有地中水の濃度上昇をもたらし,これまた塩害を引き起こす(二次的塩害).一方,地下水の汲み上げは,地盤変状をもたらし,農地の機能損失,道路の沈下・陥没などとして現われる.すなわち,塩害の発生と,水路や道路の建設などの人為的力学作用との相互作用が重要となる.この目的を遂行するため,平成18年度は,(1)飽和・不飽和状態にある土の透水・力学特性,(2)植生を介しての蒸散などの水循環,(3)降雨による水供給と地表面蒸発などの水循環,(4)地中水に含有している塩分などの移流拡散,(5)地盤の変形・応力・浸透を考慮した数理モデルを組み立てた.この数理モデルのキャリブレーションを行うために,タイのカセサート大学の協力を得て,平成18年11月27日に,バンコクでワークショップを開催した.さらに,タイ東北部のサコナコン,ウドンタニにて,地表塩分渡度の現地測定を行った.これらの成果は次年度以降の研究に対して,基礎データを与えるものである.
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