Research Abstract |
建物の発注者は企画,設計,施工などの段階におけるリスクのみならず,竣工後の居住者からのクレームや建築物の維持保全段階の問題を重要視している。竣工後におけるリスクについても事前に予測し,対策を講じることは,発注者にとって重要である。前年度は超高層集合住宅の竣工検査,内覧会,定期点検における資料を用いて,設計・施工に関わる技術的な問題や居住者からのクレーム,維持保全に関する問題を具体的に抽出した。また,それらをリスク発生基本原因によって分類し,リスクを体系化した。一方,関西圏では近い将来に南海・東南海地震などの海溝型地震の発生が確実視されるほか,上町断層の直下型地震,さらに超高層建物の非構造部材に甚大な被害を与えるとされる長時間の長周期地震動など,自然災害のリスクが無視できなくなっている。発注者としては技術的なクレーム対応だけでなく,自然災害についても責任あるリスク対策を講じておくとともに,その姿勢を広く市民に理解してもらう必要がある。このような観点から,今年度は大規模自然災害に起因する竣工後の建設リスクを対象として,広範な事例調査や文献収集につとめ,検討を深めた。なお,検討対象は広く,他分野にも及ぶため,研究分担者の助力による部分が大きかった。具体的には,(1)大規模地震によって引き起こされる地震火災の発生確率と被害程度の算定方法,(2)大規模地震による構造的被害(地盤の液状化を除く)の発生確率と被害程度の算定方法,を中心として検討した。これらには,それぞれ(A)建物の立地条件による差異の評価と(B)建物の個別設計仕様やリスク対策による差異の評価,という2つの評価軸が存在する。これらのマトリックスを念頭に置き,検討を進めた。
|