Research Abstract |
補系の進化的な起源を明らかにする目的で,10億年以上前にヒトを含む二胚葉動物から分岐したとされる刺胞動物のイソギンチャクの補体系の構成をさらに精査し,遣伝子発現部位の特定を行った。ゲノム情報の解析,RT‐PCR,5',3'RACEにより,ネマトステラには2種類のC3遺伝子,2種類のBf遣伝子,1種類のMASP遺伝子が存在する事,およびIf遣伝子,後期成分遺伝子は存在しないことが,ほぼ確立された。また,これら補体系遺伝子の発現部位をISHで検討したところ,いずれも内胚葉特異的な発現パターンを示し,ネマトステラの補体成分は胃体腔に分泌されて局所的な感染防御に働いている事が示唆された。少なくとも3種類の成分からなる補体系が刺胞動物に存在する事が確立されたことにより,補体系は真性多細胞動物の出現初期から複雑な反応系として存在し,真性多細胞動物の進化の過程を通じてその生体防御に重要な役割を果たしてきた事が示された。さらに,脊椎動物の進化の初期段階に生じたと思われる補体系の発展の様子を明らかにするために,従来から進めてきた無顎脊椎動物のヤツメウナギの肝臓EST解析をさらに追加し,また同様に血清中に存在し類似したプロテアーゼのカスケード反応を示す凝固系の遺伝子とあわせてヤツメウナギにおける網羅的解析を試みた。2007年に公表された米国産ヤツメウナギのドラフトゲノム情報も参考にして,補体系,凝固系遺伝子のほぼ全貌を明らかにする事ができたが,補体系の基本的な遺伝子セットは後期成分を除いて揃っていたのに対して,凝固系の遺伝子には多くの欠失が見られ,補体系の方が起源も古く,脊椎動物の初期段階での完成度も高く,両系の進化過程は全く異なることが明らかになった。
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