Research Abstract |
本研究は,森林流域の水質浄化に関わる生態系機能の解明と評価手法を確立することを目的とする。本年,第一段階のまとめとして,我が国で行われてきた森林流域における渓流水質に関わる研究をできるだけ網羅的にレビューし,森林の「水質浄化機能」の実態把握を行った。これをとりまとめて,「生物資源から考える21世紀の農学4森林の再発見」(京都大学学術出版会)において出版した。 安定同位体や遺伝子情報に基づく微生物生態学的な手法など先端的な方法を用いて森林小流域における野外観測を行うため先年に設定した,3つの観測,実験流域(桐生試験流域,不動寺試験流域,十津川試験流域)に加えて,房総半島南部に位置する東京大学千葉演習林内の袋山沢試験流域にも対象流域を設定し,水質項目と森林生態系の水,物質循環の状態との因果関係を明らかにする調査を開始した。上記水文過程における水試料を採取し,試料採取の上,実験室で測定する水質項目は,無機イオン濃度,溶存有機態,無機態炭素濃度,水の安定同位体比,溶存NO3-の窒素,酸素同位体比,溶存有機態炭素の炭素安定同位体比であった。 土壌中,地下水中の窒素循環の機構と,流出NO3-の起源推定のために,脱窒菌法を用いたNO3-の安定同位体比の測定を行った。この結果,袋山沢試験流域においても,地下水帯深部で顕著な脱窒が認められた.溶存有機態炭素(DOC)の炭素安定同位体比の情報は,流域から流出する有機物の起源,特徴を示す重要な情報である。これを測定するために,先年開発した,水試料中の有機態炭素をCO2として捕集,精製する機材(精製ライン)を用い,降水,土壌水,地下水,渓流水の各水文過程におけるDOCの炭素安定同位体比の測定を開始した。この結果,土壌中でのDOCの減少過程における同位体比の変動に特徴的なパターンが見られ,質的変質が見られることが明らかになった。
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