2007 Fiscal Year Annual Research Report
肥満・インスリン抵抗性における膵β細胞の代償的過形成の転写制御ネットワーク
Project/Area Number |
18390095
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒井 寿郎 The University of Tokyo, 先端科学技術研究センター, 特任教授 (80323020)
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Keywords | 膵β細胞 / Wntシグナル / 糖尿病 / 肥満 / β-cell adaptation |
Research Abstract |
膵臓のラ氏島では、肥満・インスリン抵抗性などインスリンの需要が高まるときに膵β細胞は増殖するが、その機序については不明な点が多い。私たちはこれまで、LRP5というWntシグナルの受容体をノックアウトしたマウスの解析によって、高脂肪食を5ヶ月負荷したマウスのインスリンの分泌が減弱することを見出し、Wntシグナルの重要性を示唆した(PNAS2003)。さらに、膵ラ氏島のトランスクリプトーム解析から、SOX6という転写因子が膵β細胞特異的な転写因子PDX1を抑制することを示した(JBC2005)。我々はこれらのデータをもとに、SOX6が膵β細胞の増殖にどのように関与しているのか解析を行った。その結果、SOX6のsiRNAによるknock downによってinsulinoma MIN6とINS1細胞の増殖は亢進し、逆にレトロウィルスによって過剰発現させると増殖は抑制された。HIH3T3細胞を用いた詳細な細胞周期の解析ではサイクリンD1、D2、E1のG1/S期の促進に関与するサイクリンの減少、そしてp27KipのG1/S期のブレーキに関与する分子の発現の亢進が認められた。この機序として、転写因子SOX6は、βカテニンと直接結合し、Wnt/βカテニンシグナルを抑制すること、そしてその抑制機序としてhistone deacetylase complexと直接結合し、サイクリンD1プロモーターのヒストンアセチル化を阻害する機序を示した。さらにSOX6はサイクリンD1プロモーター上でHDAC、βカテニン、TCF4と複合体を形成しDNAに結合することをChIPアッセイによって示した。SOX6がどのようにして、肥満・インスリン抵抗性時にその発現が減少するかについては未だに明らかではないが、このような病態でSOX6が膵ラ氏島で減少することによって、膵β細胞の増殖を促すことを示すとともに、PDX1という膵β細胞にとって必須な転写因子の抑制も解除することから、膵β細胞の機能、さらには、膵β細胞の代償機構に関与していることが示された(JBC2007)。我々はさらに、Wnt/βカテニンシグナルの直接標的因子としてCoup-TFIIという核内受容体をみいだした。Coup-TFIIが転写抑制複合体(HDAC,NCoR,SMRTe)を標的遺伝子としてリクルートするメカニズムを解明した。
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