Research Abstract |
アスベスト曝露について免疫系細胞で慢性長期曝露モデルを構築する必要があると考え,細胞毒性で感受性を有するHTLV-1不死化多クローン性T細胞株,MT-2,を用いて検討を行った。低濃度長期曝露株ではアポトーシスが減少し,アスベスト誘導アポトーシス抵抗性亜株(MT-2Rst)と名付け親株(MT-2Org)との性質の違いの検討をした。MT-2Rst細胞では,Src family kinaseの活性化,下流のIL-10の遺伝子発現・産生の亢進,オートクリン機構によって下流のシグナル伝達経路であるSTAT3のリン酸化,その下流のBcl-2の遺伝子・蛋白発現の増加がもたらされ,アスベスト誘導アポトーシス抵抗性が獲得されてきたと考えられた。健常人,石綿肺(担癌状態でない症例)そして悪性中皮腫の症例の末梢血CD4陽性細胞におけるBcl-2発現が,悪性中皮腫症例でのみ他の2群に比して有意に亢進していることも確認され,アスベストのTリンパ球への作用,中でも低濃度長期曝露の影響が覗えると考えている。同様にMT-2Rst細胞では,MT-2Org細胞に比し,T細胞受容体Vβのレパトアの発現がスーパー抗原曝露時のように多様に発現していることが確認され,T細胞のアスベスト線維との過去の邂逅の標となっている可能性が示唆された。症例においても23種類のTCRVβの発現を,健常人,珪肺症例,石綿肺ならびに悪性中皮腫症例のCD3+T細胞分画で検討してみると,アスベスト曝露症例である石綿肺例や悪性中皮腫例では複数のTCRVβにおいて,健常人の「平均+標準偏差の2倍」以上の発現を示すTCRVβが多く認められた。この所見は,前期のMT-2Rst細胞で観察された結果と,同意義を示すと考えられ,こちらの解析結果は,あるいはアスベスト曝露指標として発展させることが出来るかも知れないと思われた。
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