2008 Fiscal Year Annual Research Report
炎症反応による記憶機能分子かく乱に着目した化学物質に過敏な動物モデルの作成
Project/Area Number |
18390189
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
藤巻 秀和 National Institute for Environmental Studies, 環境リスク研究センター, 室長 (00124355)
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Keywords | トルエン / 炎症反応 / 記憶 / 動物モデル / サイトカイン / H-2 |
Research Abstract |
本年度は、免疫系の制御にかかわるH-2遺伝子群に焦点をあて、H-2ハプロタイプの違いがトルエン曝露による過敏状態にどのような影響をもたらすのか解析する目的で、C57BL/10(H-2b)とB10.BR(H-2k)マウスにトルエン曝露して記憶関連遺伝子の発現、免疫炎症反応の誘導について解析した。具体的にはC57BL/10マウスとB10.BRマウスを用い、0,9,90ppm低濃度トルエンを毎回30分間鼻部曝露した。最初の週は3日連続で、その後は週1回の割合で曝露を行い、4週後に試料を採取した。さらに、アレルギー性炎症モデルとして、それぞれのマウスを曝露前にOVAとアラム(アジュバント)で免疫し、その後2週間おきにOVAの感作を行った。その結果、曝露による肺での炎症性反応においては、B10.BRマウスにおいて総細胞数、マクロファージ数の有意な増加がみられた。C57BL/10マウスに比べ、リンパ球、好酸球においても増加傾向が認められた。肺胞洗浄液中のサイトカイン、ケモカイン産生では、B10.BRマウスでは9ppm曝露で、C57BL/10マウスでは90ppm曝露でIL-1β産生の抑制がみられた。また、B10.BRマウスでは9ppm曝露でTNFα,KCの産生が亢進したが、C57BL/10マウスでは90ppm曝露でKCの亢進が認められた。次に、全身曝露チャンバーを用いて、0,5,50,500ppmトルエン曝露を6週間行い、脾臓におけるサイトカイン産生に関わる転写因子の発現を比較すると、B10.BRマウスではGATA3とFoxp3の亢進がトルエン曝露でみられたが、C57BL/10マウスでは影響が見られなかった。 神経性炎症では、鼻部曝露と全身曝露の実験系で、嗅球と海馬における記憶分子としてのNMDA受容体、および炎症性サイトカインの解析を行った。海馬において記憶、学習に重要なNR1,NR2A,NR2B,CREBなど記憶関連遺伝子のレベルでは、その発現にトルエン曝露の影響はみられなかった。嗅球において、炎症性のCCL2,CCL3,mRNAの発現、及びドーパミン受容体D1,D2の発現のいずれにおいても両系統のマウスでトルエン曝露による変化はみられなかった。 以上の結果から、低濃度トルエン曝露のC57BL/10マウスとB10.BRマウスへの影響について、脳・神経領域での差はみられなかった。免疫炎症反応では、C57BL/10マウスに比べB10.BRマウスのほうでより低濃度で反応の亢進が認められ、トルエンの影響についてH-2k遺伝子複合体が感受性の亢進に関連する可能性が示唆された。
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Research Products
(15 results)