Research Abstract |
本年度は,高次感情と信念(再帰的表象)の推論能力間の関係を検討するため,4,6,8歳児計67名を対象に,感情表出ルール検査,2次の誤信念検査,および統制変数としての言語能力を測る語彙検査を実施した。表出ルール検査では表出動機を向社会的動機と自己呈示的動機で操作し,主人公に特定の感情を喚起させる状況とその感情を隠す向社会的もしくは自己呈示的動機からなるスクリプトを,動機ごとに5つ,計10個作成した。各スクリプトが喚起させる本心と表情の種類,および意図した動機を適切に反映しているかを,それぞれ成人17名と20名を対象に予備実験で確認した。その結果,各スクリプトは2種類の動機のいずれかを適切に反映し,喚起する感情や表情は合計7種類であった。2次の誤信念検査は2つで,各スクリプト場面を描いた絵各12枚,計24枚を用意した。 実験の結果,表情表出ルールの理解は,動機の種類にかかわらず4〜8歳で向上し,8歳で正答率が約85%となること,特に6歳以降から主人公が本心を隠す理由を再帰的な言い回しで説明し始めることが示された。一方,2次の誤信念は4歳では理解が困難で,8歳までに約85%の正答率となった。両検査成績問の関連を,年齢および言語得点を統制した偏相関で調べたところ,対象児全体では,向社会的表出理解と2次の誤信念理解との間に弱い相関が認められた以外に,感情と信念の理解間に有意な関連はなかった。そこで3つの年齢群ごとに分けて分析したところ,4歳児と6歳児では感情と信念の検査間に全く関連がなかったのに対し,8歳児では,動機の種類に関わらず,表出ルール理解と2次誤信念理解との間に.50を上回る有意で強い相関が得られた。以上の結果から,高次感情と2次的信念の理解はともに8歳頃までに発達するものの,6歳頃までは独立な能力であり,8歳以降に再帰的思考を基盤として統合することが示唆された。
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