Research Abstract |
本年度は,高次感情と信念(再帰的表象)の推論能力間の関係を検討するため,7,9,11歳児計60名を対象に気まずさの理解,2次の誤信念理解を測る課題,および言語検査を実施した。ばつの悪さ理解課題は,相手の感情を害する発言が社会的に禁止された場合と単なる勘違いによる場合各4場面,計8課題作成した。成人に対する予備実験の結果,2種類の気まずさ課題は,その発言が社会的に禁止されたものか否かを適切に反映し,いずれの課題も主人公が相手の反応によって気まずい感情を抱くと判断された。2次の誤信念理解課題は,"予期せぬ移動"の標準的な1次の誤信念課題を2次の誤信念課題に改変して用いた。 実験の結果,気まずさの理解は社会的禁止の有無にかかわらず7〜11歳で向上し,11歳で正答率が約80%となることが示された。2次の誤信念課題の通過率は,7,9歳では50〜60%で偶然の水準だったのに対し,11歳で85%となり正答者が誤答者を有意に上回った。両検査成績間の関連を,年齢,性,および言語得点を統制した偏相関で調べたところ,対象児全体では社会的禁止の有無を込みにした気まずさ理解と2次の誤信念理解との間に有意な関連はなかった。そこで3つの年齢群ごとに分けて分析したところ,7歳児と9歳児では感情と信念の検査間に全く関連がなかったのに対し,11歳児では,気まずさ理解と2次誤信念理解との間に有意でかなり強い相関(r=.50)が得られた。以上の結果から,高次感情と2次的信念の理解はともに11歳頃までに発達するものの,9歳頃までは独立な能力であり,11歳以降に再帰的思考を基盤として統合することが示唆された。 18年度の結果と併せ,これまで同時に検討されたことのなかった高次感情の理解と再帰的な信念の推論能力は,児童期を通じて発達し,課題に応じて徐々に統合することが明らかになった。
|