Research Abstract |
本年度は,児童と成人を対象に,心の構成的機能の理解,すなわち,人の心は,たとえ同一の事象であってもそれ対して異なる解釈や信念を構成しうるということの理解を検討した。具体的には,6,8,9,10歳児および成人に2通りの解釈が可能な多義的で曖昧な刺激と,人によって好みが異なる嗜好刺激を呈示し,それに対する対象者自身の解釈や嗜好を尋ねた後,他者の解釈や嗜好が予想できるか否かや,それらが自分とは異なる理由を尋ねた。用いた刺激は,多義図形(例えば,ウサギにも鴨にも見える図),多義語(例えば,"かみ(紙/髪)を切る"の意味)など3種類(各2通り)計6個の解釈刺激と,好悪判断の分かれる嗜好刺激(例えば,抽象絵画の評価)2個であった。実験の結果,多義刺激に対する他者の解釈が予測できないことや,解釈の多様性が刺激の曖昧性に起因することを理解したり説明するのは10歳でも難しいことが示された。さらに,たとえ成人であっても,単なる多義性から逸脱した不可能な解釈(例えば,ウサギ/鴨図形が"ゾウ"に見える)をも許容し,そうした逸脱解釈の理由を何とか説明しようとする傾向が見られた。欧米の先行研究では,嗜好の多様性が内的な好みの相違だという理解は6歳頃,解釈多様性は刺激の多義性という外的要因の認知的表象に起因する(従って,逸脱解釈は説明不可能である)と理解するのは8歳頃だと主張されていた。これに対し本研究結果は,特に日本人の場合,解釈多様性のような心の構成的機能の理解が,単に加齢に伴う認知発達を反映するだけでなく,逸脱解釈をも容認し他者の視点で説明しようとする相互コミュニケーション様式や対人的文脈に依存して発現する可能性を示唆した。心的機能の理解という認知能力が対人的な要素に影響される可能性は,今後さらに検討すべき重要な問題である。
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