Research Abstract |
本年度の研究では,金融面での定量的な分析の1つとして,現代リスク管理での重要課題であるリスクの計量化の理論的な側面に取り組んだ.リスクの計量化の本質は,過去のデータ及び特定化された確率モデルに基づき,損益を表す確率変数の分布,あるいはその特性値を定めることにある.このために,金融機関が保有する様々なポジションを総計して,そのリスクを1つの数字で表すリスク尺度の概念が必要となる.本研究では,そうしたリスク尺度としてよく用いられているバリュー・アット・リスク及び期待ショートフォールに代わって,それらの欠点を補うリスク尺度を提案し,その推定方法を論じた. より具体的には,Artzner et al.(1999)によるリスク尺度の整合性,さらには楠岡による法則不変性や共単調加法性などを条件として課し,さらに期待ショートフォールとの比較可能性の条件を加えて,歪みリスク尺度の1パラメータ族を導いた.そして,確率順序に関連してその性質を調べ,さらに独立同一分布データが得られたときの推定力法についてその推定量を定め,MATLABを用いて実際に計算を行った.理論的な結果としては,推定量の漸近的な振る舞いも検討した.さらに,正規分布とt分布の場合について,バリュー・アット・リスク,期待ショートフォールとの数値的な比較を行った. さらに,推定問題については,金融データについて独立同一分布の仮定が疑わしい場合も多いことから,時系列データに基づく推定量の理論的な性質を考察し,その結果の一部は3月のシンポジウムで報告した. 理論面では,リスク尺度の多期間版について,これまで提案されている様々な拡張について検討し,それらの実用化に向けて研究を進めている.これは,経済学での不確実性の下での動学的選択理論とも関連しているため,現在その分野の知識獲得へ向けて努力中である. 関連した仕事としては,現在A.J.Mcneil, R.Frey & P.Embrechts著の書物"Quantitative Risk Management : Concepts, Techniques And Tools"の邦訳に訳者代表として取り組んでおり,2007年中には共立出版から訳書が出版される予定である.この本を通読することにより,現代の定量的リスク管理手法について深く理解することができた.
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