Research Abstract |
スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体の発現が中枢神経系でも観察されている。しかし,中枢神経系では末梢組織とは異なったS1Pの産生機構が想定されるがその実体はほとんど解明されていない。本研究では,S1Pの供給経路としてHDL様リポ蛋白質の産生と連動したアストログリアの細胞調節に焦点をあて,そのメカニズムを解析してきた。平成19年度では,脳脊髄液のリボ蛋白質とS1Pの存在様式について検討した。また,アストログリア由来のS1Pリッチなリポ蛋白質を精製し,従来から知られている神経系細胞のリポ蛋白質作用におけるS1Pの役割を調べた。 1.脳脊髄液のリポ蛋白質とS1Pの存在様式について ヒト脳脊髄液にはラットアストロサイトの遊走を惹起する活性が観察され,この作用はS1P受容体アンタゴニスト処理にて抑制された。そこで,S1P様活性物質がS1Pであるかを薄層クロマトグラフィーで調べ,高分子画分にあることを明らかにした。また,ヒト脳脊髄液に含まれるHDL様リポ蛋白質画分を精製し,ウエスタンブロット法でアポ蛋白質を確認後,リポ蛋白質画分に吸着しているS1Pの存在を確かめた。 2.HDL様リポ蛋白質の作用発現におけるS1Pの関与 ラット新生児アストロサイトの培養上清,ヒトの脳脊髄液や血漿から超遠心でリポ蛋白質(HDL)を精製し,二つの細胞応答系でそれぞれの効果を比較検討した。脳脊髄液由来のHDL様リポ蛋白質には,S1P受容体を介したアストロサイトの細胞遊走促進が観察された。一方,ラットアストロサイトの培養上清に放出されたHDL様リポ蛋白質には,S1P受容体を介したオリゴデンドロサイトの突起の退縮作用が観察された。 以上の結果は,平成18年度に推測したメカニズム「細胞内S1PがHDL様蛋白質の産生を高めるシグナルの関与より,リポ蛋白質画分に濃縮され細胞外に放出される」をサポートしていると考えられた。
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