Research Abstract |
いり酒は,室町時代から江戸時代中期まで,主に刺身や膾などに使用されていたが,いり酒の利用は醤油の普及とともに減少していったことが先行研究によって示されている。そこで,いり酒が存在した意義や役割を解明することを目標に,まず,料理本の記述から,いり酒の製法や利用法について調べ,その結果に基づいていり酒を再現し,成分などから嗜好特性を明らかにしようとした。 江戸期の料理本を翻刻した『翻刻江戸時代料理本集成』と『日本料理秘伝集成』に収載の料理本より76冊を分析対象資料として,いり酒の出現数・種類,各いり酒の製法について調査した。その結果,資料とした76冊のうち62冊にいり酒が記載されていた。そのうち,いり酒の製法に関わる内容として,作り方と材料の分量が記載されていたのは11冊であった。また利用法について調べたところ,約70%は刺身や膾の調味料として使われていることが確認できた。いり酒には,古酒とかつお節,梅干を基本材料とするいり酒の他,早いり酒,精進いり酒,茄子いり酒,玉子いり酒などのバリエーションがあることがわかった。 次に,基本と考えられるいり酒について,料理本の記述に従い,入手可能な材料を用いて再現し,呈味成分の特性を調べた。以下,含量について,いり酒100mlあたりで表記すると,核酸関連物質としては,イノシン1リン酸(22mg)とイノシン(12mg)が含まれていた。遊離アミノ酸量は950mgであり,アルギニンとヒスチジンが比較的多く含まれていた。有機酸では,クエン酸(305mg)と乳酸(263mg),コハク酸などが含まれていた。 いり酒といり酒を構成する各材料の呈味成分を比較した結果,いり酒はかつお節に由来する核酸関連物質に加え,古酒によるコハク酸やなどによるうま味成分と,梅干し由来のクエン酸などの有機酸による酸味などが合わさったものであることがわかった。
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