Research Abstract |
江戸期の料理本を翻刻した76冊を資料として調査した結果,いり酒にはいくつかのバリエーションがみられた。そこで料理本の記載に基づき,原型と思われる「いり酒」と簡便法と思われる「早いり酒」を再現し,現代への利用可能性を調べるために,女子大学生を対象に官能評価を行った。 いり酒は『料理物語』の記載に基づき,酒450ml,鰹節7.6g,梅干31gを合わせて酒重量の半分まで煮詰めて調整した。早いり酒は『合類日用料理抄』の記載に基づき酒450ml,醤油113ml,酢56mlを合わせて加熱と冷却を3回くり返して調整した。評価試料はいり酒,早いり酒と対象として濃口醤油を加えた。食材料は料理本によるといり酒の多くがに刺身に,次いで和え物,浸し物に使われていたことから,タイ及びマグロの刺身ときゅうり,大根,ほうれん草(ゆで)を用いた。対象者は女子大学生30名とし,香り,味,好み,総合評価などの項目に対して評点法により官能検査を行った。 1. 調味料としての特性(醤油との比較)では,いり酒は色と香りが弱く,旨味と酸味が強く,塩味は弱かった。早いり酒は塩味が弱く,酸味は強かった。総合評価の評点はいり酒と醤油に比べて早いり酒が有意に高かった。 2. 刺身に使用した場合の評価(合性と好みについて)はタイに使用した場合,早いり酒と醤油に比べていり酒は低かった。マグロに使用した場合は,いり酒,早いり酒,醤油の順でいり酒に対する評価が低かった。 3. 野菜に使用した場合の評価(合性と好みについて)はきゅうりとほうれん草に使用した場合いり酒醤油に比べて早いり酒の評価が高かった。大根に使用した場合,いり酒と,早いり酒,醤油の間に有意差はなかった。 今回の対象者では,いり酒に対する評価は相対的に低く,白身魚の刺身に合うという事前の期待に反する結果であった。早いり酒は,野菜に使用した場合の評価が高く,現代の食生活にも受け入れられ,利用可能であることが示唆された。
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