2006 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ生命倫理学の黎明期における歴史的・社会的背景についての包括的研究
Project/Area Number |
18500756
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金森 修 東京大学, 大学院教育学研究科, 教授 (90192541)
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Keywords | 装甲的生命観 / ビオスとゾーエー / キャラハン / フランスの医学哲学 / 自然主義との闘争 / 文化によるガバナンス / チフスのメアリー / 公衆衛生と個人的人権 |
Research Abstract |
今年は初年度であるために、試行錯誤的な作業を余儀なくされた。 まず最初に、D・キャラハンが70年代前半に編纂した『倫理の基盤とその科学との関係』叢書を読破した。その結果分かった若干意外なことは、70年代前半の時点では、まだアメリカでも生命倫理学に固有の議論場が確立しているとは言いがたく、宗教関係者、哲学者、法学者など、普通の意味での医療分野からは外的な位置にいる人々が、どのような権利や根拠によって、医学の理論的発展や医療現場での作業について介入・干渉・提言をしていくのか、その理由付けを模索する段階にあったということである。ところが70年代終盤には、ケネディ研究所が中心になってとはいえ、生命倫理を題材とする大きな百科事典が公刊されるまでになる。だから70年代半ば以降の数年にかけての歴史的推移について、より綿密な調査が必要だろうという推測が可能になった。 今年度は,学会活動を活発に行うことができた。我が国の生命倫理学会で二つ発表した以外にも、北京の国際生命倫理学会、パリの科学哲学・科学史研究所やコイレセンターで講演をすることができた。これらが最も大きな成果だといえるだろう。 ちなみに論文では、ギリシャ以来存在していた二つの生命概念、つまりビオスとゾーエーに着目し、現代の状況のなかでビオス概念がもつ哲学的・生命倫理的含意を掘り下げることができたのは幸いであった。それは「装甲するビオス」として公刊され、それを敷衍して英語に書き直したものが現在印刷中である。 また、医療現場での患者の扱いを支える発想を陰に陽に規定するいろいろな生命観や哲学を剔抉していく過程で、医療活動を一種の<自然>の延長と見なす自然主義に対抗するために論陣を張った。<自然>を多少とも規制し、支配していく<文化のガバナンス>への配慮ができたのは、今年度のもう一つの成果だったと考えている。 なお、それと並行して、アメリカ公衆衛生史上有名な事例であるチフスのメアリーの事例を中学生・高校生にも分かるように易しく解説した新書を公刊することができたということも付け加えておく。
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Research Products
(5 results)