2008 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ生命倫理学の黎明期における歴史的・社会的背景についての包括的研究
Project/Area Number |
18500756
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金森 修 The University of Tokyo, 大学院・教育学研究科, 教授 (90192541)
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Keywords | 生権力 / 生政治 / ゾーエー / ビオス / 公私領城の曖昧化 / 生命倫理と政治 |
Research Abstract |
今年度は、当初の計画を進めるべく、60年代、70年代の医学批判論をかなり細かく読み込んだ。例えばイリイチなどの根源的批判を立ち上げた人々である。また、同時にエンゲルハートらの生命倫理・哲学の文献集を綿密に読み込んだ。 そこで明らかになったことがある。それはイリイチなどの根源的批判は、かえって、現場の医療関係者たちの違和感と反感をもたらし、充分に受け止められなかった、ということである。つまりあまりに過激な批判は医療の実質的改良にはなかなか届かないまま、外在的な非難に留まるという重要な事実であった。 他方、エンゲルハートらの生命倫理学の立ち上げの努力については、70年代前半から半ばにかけて、数多くの異領域の専門家たちと出会い、彼らなりに十分な努力がなされているということが分かった。例えば、神学者、哲学者、社会学者などとの邂逅である。特にこの時代に於いては神学者たちの果たした役割は重要なものだった、と評価できるだろう。ただ、これらの文献を現時点で読むなら、それは、まだ模索的な色彩が強く、手探りのような対話が行われているという印象が強い。その意味では、これらの作業に、現時点ではそれほどの面白さを感じることができなかった。 というわけで、この研究計画は、4年の内の3年が終わった段階で一種の壁にぶち当たってしまった。このまま続けても、現代社会にとってはそれほど興味深い論点が出されないのではないのか、という不安である。 そこで私なりに、もてる知識の総動員をして打開策を図った。すると、興味深いものがみつかった。それはちょうど1970年代半ば頃あたりをひとつの起点として立ち上げられつつあった特殊な生命論、というより生命を政治的に把握するための生政治論、生権力論という主題への照射である。具体的にはフーコー、アガンベン、ネグリ、エスポジトなどの作業のことだ。幸運なことに、私は本研究とは同時並行的に長年フーコーには慣れ親しんでいた。そして、上記のような認識の元に、生命倫理学の黎明期をそのまま調査するよりも、それとほぼ同時代に立ち上げられつつあった、生命と政治論とのリンクという微妙に異なる主題設定に若干この研究の中心軸をずらせた方がいいのではないかという認識を持つに至ったのである。そして、早速今年度の後半から、フーコーをその観点から改めて読み直し、また、アガンベン、ネグリの主要なものを読み始めた。だから、来年度はこれをより十全に展開したい、と考えている。
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Research Products
(3 results)