Research Abstract |
本研究は、堅果類(ドングリ)の豊凶の地理的なダイナミクスが、大型野生動物の個体群動態や土地利用様式、ひいては獣害発生め様式や動向とどのように関連しそしているかを,兵庫県域スケールで解明することを目的としている。 現在までに,コナラ,ミズナラ,ブナの3樹種を対象に兵庫県下の約220調査地点において,3年間の豊凶調査データを収集した。堅果類の豊凶が時空間的同調することは,これまでブナ以外の日本のブナ科樹種では明確なデータは示されていない。しかし,本研究において,コナラにおいても,ある程度の時空間的な同調性が存在する結果が得られた。 3年間の豊凶データと,兵庫県で毎年収集しているツキノワグマの目撃情報を解析した結果,ツキノワグマの人里への出没と堅果類の豊凶には開係があった。つまり,3種全てが凶作であった2006年はツキノワグマの大量出没年となっており,ブナまたはコナラが豊作であった他の2年では出没数が少なかった。東北地方ではブナの豊凶とツキノワグマの人里への出没には関係があることが示されている。しかし,本研究のように複数の樹種の豊凶画ツキノワグマの出没に関係していることが示された例はない。本研究の結果は,ツキノワグマの出没と豊凶の関係には,植生の地域性も影響していることを示唆している。したがって,今後も継続的なデー夕の収集を行うとともに,東方地方との植生の地域性の違いを検討することで,豊凶に伴うツキノワグマの出没メカニズムについて理解が進むことが期待できる。 イノシシについては,2万件以上の狩猟者からの報告を分析した結果,その密度分布に地理的変異画が存在し,広葉樹林域において生息密度が高いことが明らかとなった。これらの結果は,2007年度に哺乳類学会と日本生態学会大会で発表するとともに,哺乳類科学誌において原著諭文が受理された。イノシシが広葉樹林を主要な生息域としていることは,その個体群動態が豊凶の影響を強く受けることを示唆している。今後,堅果類の豊凶データと併せて解析されることで,イノシシの個体群動態に及ぼす豊凶の影響についても明らかになることが期待できる。
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