Research Abstract |
アンコール・ワット第一回廊では,砂岩柱の劣化がかなり進行している.これまでの本研究の成果によると,劣化は砂岩の材料学的性質と含水状態の変動に起因していると推測される.そこで,砂岩供試体の引張強度と含水比との関係を実験的に分析するとともに,回廊に設置したデータロガーの記録から気温・湿度変動を解析した.その結果,含水飽和状態の砂岩の引張強度は,乾燥状態にあるそれのおよそ1/2であることが明らかにされた.また,風化の進んだ砂岩柱では,層理の発達が強度低下に寄与しているものの,未風化の砂岩供試体を用いた試験結果から,層理の向きが強度に与える影響はほとんどないこともわかった.これらは,砂岩柱の降雨に伴う含水比増加や風化による層理開口幅の増大が,劣化の進行に強く関わることを示すものである. 第一回廊のデータロガーは,向きの異なる回廊の4箇所に設置され,気温と相対湿度を1時間間隔で記録している.2007年7月23日から2008年3月21日までのおよそ8ケ月間のデータを回収して解析したところ,期間中の平均気温は北向き回廊27.5℃,南向き回廊29.5℃,東向き回廊28.7℃,西向き回廊28.7℃であった(以下,それぞれの回廊を北,南,東,西と略称).また,相対湿度は,北73%,南66%,東67%,西69%であった.データロガーの設置環境は,いずれの回廊もほぼ同じであることから,これら測定結果は,回廊の向きによる違いを反映していると見なすことができる.とくに北向き回廊は,相対的に直達日射の影響が小さいため,他の向きの回廊より気温は上昇せず,回廊を構成する砂岩ブロックからの蒸発量も小さい.今回の現地調査では,北向き回廊のビーム上に,回廊の天井部から剥落した砂岩片が確認された.このため,北向き回廊で高湿環境が継続しやすいことが,このようなスレーキング剥離をもたらすものと推察された.
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