Research Abstract |
ストイキオメトリーは化学結合の際の元素の量比を表す用語であるが,生態学の分野では物質循環の際に,各元素の比が生物の生活史や群集構造に意味を持つことが,近年明らかになりつつある.ミミズは分類学的な研究の進展により,野外での群集レベルの研究が可能になってきた.一方,海外ではミミズ外来種が生態系の構造を変える事例が報告されているが,日本のミミズ群集を構成する種の生活史や,外来種の挙動は,ほとんどわかっていない. そこで,日本産ミミズの窒素とリンのストイキオメトリーを明らかにするために,日本のミミズ群集で優占的なフトミミズ科ミミズ5種,ツリミミズ科ミミズ1種を北海道,神奈川,沖縄で採集し,体に保持されている窒素とリンの量を測定した.また,カナダの農地から得られた地中性のツリミミズ科ミミズ2種もあわせて分析し,比較した.その結果,ヒトツモンミミズ,アオキミミズなど表層性で落葉を食べていると考えられている種はN/Pが低く,一方,土壌有機物を摂食する地中種は日本産,カナダ産とも表層性に比べてN/Pが高い傾向を示した.これは淡水産動物プランクトンで明らかにされている傾向と一致した.また,沖縄に生息し,地中性で土壌表面の落葉を食べるヤンバルオオフトミミズ(表層採食地中性種)は,もっともN/Pが低い体を持っていた. これらのことから,体の窒素・リンのストイキオメトリーは,ミミズの生活史の特徴を反映する指標とできることが確認できた. さらに,既存のデータの再解析により,土壌動物で,落葉食であるオカダンゴムシの窒素代謝の説明に,ストイキオメトリーのモデルが適用できることを示した.
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