Research Abstract |
疫学調査によって,胎児性水俣病患者の同居家族が居ない患者の割合が半数近くに及ぶ事実や日常生活における要介護者が高率に存在すること等,健康や介護における切実な問題の一部が明らかになった.また,彼らの日常会話の理解能力と自信の考えの表現や行動能力の間に構高障害や運動機能障害に伴うであろう不均衡に起因するコミュニケーション障害が存在することが示唆され,胎児性患者とのコミュニケーション上そのことを理解しておく必要があると考えられた.ADL調査では半数が入浴や移動における介護が必要でありという実態が明らかになり,胎児性水俣病患者の中には、急激な下肢の運動機能の悪化や突然の死を迎えるものがあった.胎児性患者の現在の愁訴の聞き取り調査を十数名に予備的に行なった.その結果,胎児性水俣病患者の自覚症状には外見的に把握できる構高障害,上肢・下肢の運動障害に加えて手足のしびれ等の成人性の水俣病患者の自覚症状を併せて持っていること,頭痛・肩こりの愁訴率の高いことが示唆された.このような,胎児性水俣病患者に特徴的な自覚症状を明らかにし,胎児期のメチル水銀曝露の神経系及び生理的老化に及ぼす研究を推進する.動物実験では,成獣ラットでは何らか影響の出ない低濃度の水銀を曝露し,出産後の児の学習試験を行った結果,脳の高次機能障害を起こしていることが証明され,発達の脳がメチル水銀への感受性が高いことが明らかになった.また,ヒトで膀帯中メチル水銀とその他の胎児期メチル水銀曝露指標との相関についての検討を行い,臍帯中水銀濃度によって,推定される出生時点における母親の毛髪中水銀濃度,臍帯中水銀濃度,母体血水銀濃度の関連式を算出した.臍帯血中水銀濃度は母体血中水銀濃度より約2倍高いことが示され,胎児期には脳の感受性が高い上にメチル水銀が胎児に能動的に移行しており,胎児期のメチル水銀のリスクの高さを裏付ける結果が得られた.
|