2006 Fiscal Year Annual Research Report
アルゼンチン免責法廃止が軍政期人権侵害訴追と歴史的記憶の再構築に与える影響
Project/Area Number |
18510216
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
内田 みどり 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (10304172)
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Keywords | 歴史的記憶 / 強制失踪 / ラテンアメリカの軍政 / 国際人権法 / 免責法 |
Research Abstract |
アルゼンチン最高裁の免責法無効判決は、強制失踪事件のほとんどが自国領域内ではなく、アルゼンチンで両国軍の共同作戦によって起きているウルグアイにとってアルゼンチンがますます容疑者引渡しを要求してくることを意味するが、国内では失効法が依然として有効であり、真相究明のネックとなってきた。アルゼンチンの免責法無効は、ウルグアイの失効法をめぐる動向にどのような影響をもたらすのか。またウルグアイでは2005年3月に史上初めて左翼統一会派の「進歩会議・拡大戦線」のバスケスが大統領に就任、大統領選挙と同時に行われた両院議会選挙でも進歩会議が過半数の議席を得るという政治的変化があった。そこで18年度はバスケスが就任以後、軍政期人権侵害の訴追についてどのような政策をとり、それボウルグアイ国内でどのように受け止められたかを分析した。バスケスは「失効法を堅持しながら、第4条に定める行政附の調査を完全履行することで強制失踪被害者に何が起きたかを明らかにする」考えで、2005年11月には失効法解釈法で解釈の厳密化を明文化しようとした。研究成果にあげた拙稿では、この法案の骨子と法案にたいする政治家・法学者・人権団体の反応を概括した。法案には失効法存続賛成・反対双方の立場から否定的な見解が多かったため、法案は取り下げられた。しかしバスケスは国外からの人権侵害事件被疑者引渡し要求を歴代政権で初めて受け入れチリに引渡しを実行したほか、アルゼンチンからの強制失踪事件の被疑者引渡し要求を受けて被疑者の身柄を拘束。彼らは国内で訴追されることになった。以上の事柄は、属地主義を基本とする裁判管轄権の原則との関係で、国境を越えて軍が共同で人権侵害を行ったというコンドル作戦の特徴を利用して、免責法があってもそれを厳格に解釈すれば一部の事件については訴追が可能であることを示している。
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