2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520003
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
信原 幸弘 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10180770)
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Keywords | 基礎行為 / 相互作用主義 / 透明性 / 生得性 / 道具 / 熟練 / 知覚 / 表象 |
Research Abstract |
基礎行為に関して、認知科学や脳科学の成果を踏まえて、相互作用主義的観点から考察した結果、以下のような点が明らかになった。 (1)基礎行為は、その詳細を心のなかで予め表象して、それに基づいて身体運動を一方向的に制御することによって成立するものではなく、脳と身体と環境のそのときどきの多様な要因の間の複雑な相互作用によって成立する。従って、同じタイプの基礎行為でも、その具体的なあり方は、そのときどきによって微妙に異なる。 (2)ふつう身体の動きだけを含むとされるような行為だけではなく、靴ひもを結ぶような対象に働きかける行為や、金槌を打つような道具を用いた行為も、基礎行為に数えられる。というのも、それらもまた、脳と身体と環境の相互作用によって成立するからである。 (3)基礎行為の能力は、必ずしも生得的ではなく、むしろその多くは環境との相互作用を繰り返すことによって後天的に習得される。とくに、複合的な行為がそれへの熟練を通じて基礎行為に転化する場合、意識されていた多くの要因が透明化し、ごく少数の鍵となる要因にのみ注意が向けられるという重要な変化が起こる。 (4)基礎行為は、それに先行する知覚によって導かれるというよりもむしろ、知覚と不可分である。基礎行為にはそれにふさわしい知覚が必要であり、基礎行為能力の習得とともに、そのような知覚能力が習得される。ある基礎行為を行うことは、ある知覚を形成することにほかならないのである。
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