2006 Fiscal Year Annual Research Report
存在論をてがかりとした道元の思想構造に関する総合的研究
Project/Area Number |
18520007
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
頼住 光子 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (90212315)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高島 元洋 お茶の水女子大学, 文教育学部, 教授 (90127770)
|
Keywords | 道元 / 正法眼蔵 / 仏性 / 空 / 縁起 / 日本倫理思想史 / 仏教哲学 / 存在論 |
Research Abstract |
本研究は、道元の思想の根幹にある存在論を、自己概念や、世界観と関連させて明らかにすることによって、道元の思想の構造を総体として解明することを目指すものである。特に、本年度は、道元の主著である「正法眼蔵」の中でも思想的に重要な巻であり、存在論を検討するのにもっともよい題材のひとつである「仏性」巻について検討を行った。 研究にあたっては、道元の存在、自己、世界に対する把握の基底をなす「空-縁起」について、その思想の内実が、道元の「仏性」巻の文体を通して表現されているという見通しを立て、それに基づいて、道元の文体の分析を行った。その結果、道元のいくつかの特徴的な文体の類型が見られ、それぞれにおいて、道元の存在論の根幹をなす「空-縁起」が、文の独特の形式の中に表現されていることが明らかとなった。独特の形式とは、道元の文体の特徴として指摘される、矛盾表現や逆説表現、一見因果関係として把握しがたい原因-結果表現である。 そして、さらに「仏性」巻に表現された道元の仏性思想の内実について、「仏性」巻の一文一文について詳細な注釈を行いながら明らかにすると同時に、本年度は、その仏性思想のもつ、東アジア仏教史上の意義、日本仏教思想上の意義を解明した。その意義とは、要点をとっていうならば、インドにおいて起こり、中国で大きく展開した仏性思想の歴史の中で、仏性を実体化して何らかの実体をもったものとしてあつかう傾向が強くなったことに対する反作用ということである。そのような実体化する傾向とは、仏教の存在論の根幹をなす「空-縁起」思想からの逸脱であるが、人間が言語を使って認識し、言語によって指示されるものが実体化されやすいという人間の認識の逃れられない傾向性によるものである。(ちなみに、仏教は、言語のもたらすこの傾向性について十分に意識的であった。)道元は、「仏性」巻の中で、この実体化傾向について批判し、仏性が「空-縁起」としてあるということはどのような事態なのかということを、その文体の中で、言語のもつ実体化傾向を破壊しながら語っているのである。つまり、内容を文体が説明するというやり方を道元はとっているのである。 また本年は、親鷺の仏性論についても検討し、道元のそれとの異同を解明した。
|
Research Products
(6 results)