2006 Fiscal Year Annual Research Report
「具体的なもの」の系譜とサルトル哲学の展開についての研究
Project/Area Number |
18520023
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Sapporo International University |
Principal Investigator |
水野 浩二 札幌国際大学, 人文学部, 教授 (20181901)
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Keywords | サルトル / 倫理学 / 実存主義 / ジャン・ヴァール / 具体的なもの / 現代フランス哲学 |
Research Abstract |
『弁証法的理性批判』第一巻(一九六〇年)の後半で、サルトルは、「われわれはついに具体的なもの(le concret)に到達することができる、すなわち弁証法的経験(experience dialectique)を完成することができる」(CRD.I, p.753)と述べている。『弁証法的理性批判』第一巻の目的は、歴史の形式的な枠組を記述することであった。それが今や、形式的環境についての記述もほぼ終わり、いよいよ具体的な歴史を扱うときがきたのである。ところで、サルトルはすでに青年期から具体的なものの観念に関心をもっていた。「一冊の本が、当時われわれのあいだで大いに成功を収めていた。それはジャン・ヴァールの『具体的なものへ』である」(CRD.I, p.23)。ヴァールは、その本のなかで、ウィリアム・ジェイムズのプラグマティズム、ホワイトヘッドの有機体の哲学、そしてガブリエル・マルセルの存在論的不安が、具体的なもの追い求める様子を描いた。三者に共通して見出されるのは、「所与にたいする感情」(ヴァール)をさりげなく見出す経験論である。若いサルトルは、そうしたいわば反一観念論的、反一主知主義的立場に魅了されたのである。さて、二〇〇四年にヴァールの『具体的なものへ』が再版された。それを機会に、具体的なものという観念がサルトル哲学の展開過程においていかなる影響を与えているかを、検討してみた。一九四〇年代後半に書かれた、遺稿『倫理学ノート』(刊行は一九八三年)を見ると、「具体的普遍」、「具体的目的」、「具体的義務」、「具体的<われわれ>」、そして何よりも「具体的倫理」といった言葉が使われていることに気づく。「具体的倫理」とは、相互承認論を基調に据えた倫理学であることも、わかってきた。さらには、「具体的倫理が」、一九六〇年代半ばの「弁証法的倫理」に発展していくことも見えてきた。
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Research Products
(1 results)