2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520024
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
下川 潔 Gakushuin University, 文学部, 教授 (40192116)
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Keywords | ヒューム / 近代自然法思想 / 正義 / 所有権 / ホッブズ / グロチウス / プーフェンドルフ |
Research Abstract |
今年度は、過去二年間の研究でやり残した課題に取り組んだ。 (1)ヒュームの約束論は、自由意志を前提とするグロチウス、プーフェンドルフ、ロックによる約束の拘束力の説明と対照的であり、両立可能論的な決定論をとるホッブズの説明と類似することが判明した。ただしヒュームの場合には、ホッブズとは異なり、道徳感情論が約束の拘束力の説明において一定の役割を果たしていることを確認した。 (2)ヒュームの所有権論は、当事者間の利益感覚の一致を重視した一種の合意所有権論であり、グロチウス、ホッブズ、プーフェンドルフの理論を洗練させたものだが、他方でこれは、合意ではなく労働主体の行為を重視したロック所有権論の系譜、つまりバルベイラック、カーマイケル、ハチソンらの所有権論と対立するものであることを明らかにした。 (3)財産所有権の帰属を決定する規則に関するヒュームの説明は、彼独自の心理主義的説明に依存しているが、同時にローマ法の概説的説明やグロチウスやプーフェンドルフの説明にもある程度依拠していることが分かった。ヒュームがエディンバラ大学時代に得た法学の知識については、これから調査が必要である。 (4)約束の拘束力の説明、および正義の制度のもつ効用がいかに道徳判断を生み出すかという説明を除けば、ヒューム自然法思想は彼の道徳感情論とは関係がない。ヒューム以降の功利主義思想は道徳感情論を批判し、同時に、道徳感情論と無関係なヒュームの自然法理論の部分を取りあげ、これを規範的功利主義に作りかえたものと見てよい。ただしこの点に関しては、さらに入念な分析と解釈が必要だと思われる。
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