2007 Fiscal Year Annual Research Report
デーヴィッド・ヒュームに潜む目的論の研究:近代哲学の再構築に向けて
Project/Area Number |
18520028
|
Research Institution | Keiwa College |
Principal Investigator |
矢嶋 直規 Keiwa College, 人文学部, 教授 (10298309)
|
Keywords | イギリス哲学 / 近代哲学 / 倫理学 / デービッド・ヒューム / 正義論 / 共感論 / スコットランド啓蒙 / 社会契約説 |
Research Abstract |
2007年度は、従来他我認識の問題として論じられることが多かったヒューム『人間的自然論』(1739-40)の「シンパシー(共感)論」を、「抽象観念論」において論じられた個物と個物の類似による連合を情念の次元に適応し、人々の連帯とそれに基づく社会形成の基礎理論とする解釈をまとめた。私の解釈では、ヒュームのシンパシー論は、自己と他者とを一般化する感情として位置づけられ、それは他者へのサービスのシステムとしての分業を生み出す基礎と位置づけられる。それによって、ヒュームの社会契約説批判が『人間的自然論』の認識論および情念論において基礎付けられていることを示した。成果の一部は『イギリス哲学・思想事典』(研究社、2007年)にまとめられている。 10月13日-14日に新潟大学において開催された日本倫理学会において「ヒュームにおける「狡猾な悪人の問題」:「狡猾な悪人」をめぐって」と題する発表を行い、ヒュームの習慣概念が規範の形成と規範遵守の意識において決定的な意義を有することを論じた。 また昨年ヒューム正義論における正義の第一の規則「所有の安定」の理論を論じたのに引き続き、ヒュームにおいて正義の第二の規則とされる「同意による所有の移転」ならびに正義第三の規則である「約束の遵守」が所有論を基礎にして導かれていることを示し、そして統治組織への忠誠論を正義の規則を完全にしようとする人間的自然の規範性の現われとして解読した。この成果は、『敬和学園大学研究紀要』第17号に掲載された。
|