2008 Fiscal Year Annual Research Report
デーヴィッド・ヒュームに潜む目的論の研究:近代哲学の再構築に向けて
Project/Area Number |
18520028
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Research Institution | Keiwa College |
Principal Investigator |
矢嶋 直規 Keiwa College, 人文学部, 教授 (10298309)
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Keywords | ヒューム / 外的物体論 / 客観性 / 一般的観点 / 近代哲学 / 認識論 / 正義論 / 社会契約説 |
Research Abstract |
平成20年度は、ヒュームの認識論と道徳論をつなぐ上で最も中心的な主題でもある「外的物体論」の道徳哲学的意義について論じることができた。従来ヒュームの「外的物体論」は道徳論とは無縁の認識論上の主題として論じられてきた。しかし、ヒュームの『人間的自然論』全体の最も重大な主題が道徳の解明である限り、知識論が道徳論と無関係であるとは考えられない。こうした理解が一部のヒューム研究者によって認められているとしても、さらに重大な問題は、いったい知識論における個々の議論が具体的にいかなる意味で、どのような道徳哲学的含意を有するのかがこれまでまったく論じられていないことである。私はヒュームの認識論と道徳論をつなぐ鍵概念を「自然」に見出し、道徳的認識が人間にとっての自然的認識である点において、道徳認識が自然主義的に基礎付けられることを主張した。ヒュームによる外的物体の自然主義的説明の意義は、デカルトの「表象的実在性」の概念を観念の対象である「外在的対象」の虚構へと転換した点にある。外的物体とは観念の自然な連合と想像力の働きによる虚構であり、その虚構の信念は安定した世界観の基礎として最も重要である。ヒュームは道徳的信念の特徴も、外的物体の虚構と同じ感情の感じに求める。さらに私はヒュームの外的物体論が、「公共的な物体(res publica)」としての国家の自然主義的基礎付けの理論ともなっていることを指摘した。 また道徳論の重要概念である「一般的観点」についてヒュームの『人間的自然論』全体における用法を検討し、同概念についての欧米の研究者たちの解釈を批判的に検討した上で「一般的観点」と「一般規則」の同異を論じた。
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Research Products
(3 results)