2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520047
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
佐々木 閑 花園大学, 文学部, 教授 (40225868)
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Keywords | 『婆沙論』 / 説一切有部 / アビダルマ / アディカラナ |
Research Abstract |
仏教哲学書の中でも最大の規模を持つ『婆沙論』は、そのあまりにも膨大な記述量のせいで、総合的な研究が未発達のままであった。『婆沙論』には異本が三本あるが、それらの異同関係さえもいまだ十分には解明されていない。仏教の展開過程を理解するうえで必須の資料でありながら、資料として活用するための基盤整備が全く未発達のこの論書に関して、それを誰もが自由に活用し得るための基本的データベースを構築するのが、本研究の目的である。昨年度は、『婆沙論』三本の異同関係を解明し、完全な対照表を作成することと、『婆沙論』の中に現れる「論争」すなわち「諍(アディカラナ)」の概念に関して、律文献から、その起源を探るという二方向からの作業をおこなった。対照表に関しては、新婆沙とシタパーニ撰婆沙、および、旧婆沙とシタパーニ撰婆沙の対照表は完成し、最後の作業となる新婆沙と旧婆沙の対応関係に関してはおおよそ八割の作業を終えたので、最終的なものは本年度中に発表する予定である。これによって、『婆沙論』三本が有機的に結びつき、有部内部の思想状況に関して、新たな知見が得られるものと期待できる。諍の研究に関しては、第一段階の調査考察を終了し、論文として発表した。本来は単なる「もめ事」「事件」という意味であったアディカラナの語が、律蔵内部で変化し、「僧団内部における、僧侶同士の論争」という特殊な意味へと変遷し、さらにそれが、諸般の事情によって複雑化していく様子を歴史的に辿ることができた。これによって、『婆沙論』理解の鍵となる、「仏教世界内部での論争は、どのようなかたちで行われていたのか」という問題を解明するための糸口が得られた。今後さらに三、四本の論文として連続的に成果を発表していく予定である。
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Research Products
(1 results)