2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520068
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
木原 志乃 国学院大学, 文学部, 講師 (10407166)
|
Keywords | 古代ギリシア / 哲学史 / 医学史 / ヒッポクラテス / 生命論 / アリストテレス / ペリパトス派 / 病い |
Research Abstract |
古代ギリシア哲学および医学思想における魂と身体のかかわりに注目し、特に「四体液理論」がヒッポクラテス以来、どのように捉えられるに至ったかを中心とした考察を進めたのが本年度の研究である。ギリシア医学における「四体液理論」は、身体の有機的連関を説明するための核となる見解として、ギリシア哲学との緊張関係の中で理論化されたものである。その「四体液理論」が形成される際にきわめて重要な役割を果たすこととなったのが、メランコリア(黒胆汁)である。血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の四つの主要な体液のうちでも、黒胆汁は存在様態としてもそれが及ぼす作用としても複雑多岐であり、医学文書の内部でも黒胆汁をめぐる見解には大きな変容が見られる。すなわちそもそも悪しき物質と解されていたものが、四体液理論に組み入れられ、さらに「傑出した才能」と結びつけられるというきわめて注目すべき展開をたどったのがメランコリア概念なのである。それを踏まえて、ヒッポクラテスからプラトン、アリストテレス、およびペリパトス派にいたるまでのテキストを検討しながら、メランコリア概念を身体および精神の双方にかかわる全体的調和の成立・不成立という観点から明らかにしたのが、本年度の研究成果としての論文「古代ギリシアにおけるメランコリア」である(また3月にメランコリア論をテーマとしてイリソス会にて研究発表を行った)。 さらに、本年度はギリシア哲学研究の立場から、現代の諸問題についてのいくつか小論を発表しつつ(「人間会議」)、ガレノス『ヒッポクラテスとプラトンの学説』第二分冊の翻訳も継続して行った。また、初期ギリシア哲学についての基本文献であるG.S.カーク、J.E.レイブン、M.スコフィールドによる『ソクラテス以前の哲学者たち』の翻訳メンバーに加わり(第六章担当)、10月に出版した(京都大学学術出版会)。
|