2008 Fiscal Year Annual Research Report
東西の霊性における愛の思想史ー古典文献に見るユダヤ・キリスト教の愛と仏教の慈悲
Project/Area Number |
18520073
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Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
須沢 かおり Notre Dame Seishin University, 教授 (50171195)
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Keywords | 愛 / 思想史 / ユダヤ・キリスト教 / 仏教 / 慈悲 / 聖書 / 霊性 / 宗教言語 |
Research Abstract |
ヘブライ思想、キリスト教思想、ギリシア思想、ラテン思想における「愛」の概念の特徴を分析し、キリスト教における神と人との愛における一致、交わりがいわゆる西欧近代の自他関係を超克する次元で高められている点について注目し、煩悩から離れ、執着を超える普遍的次元としての仏教的な「慈愛」、「慈悲」との共通する思想的文脈を探った。ユダヤ教、キリスト教はヘブライ思想の二潮流であるにもかかわらず、聖書的な「愛」(アガペー)には新約聖書おけるギリシア的な考え方との拮抗関係が見られ、本来、ヘブライ思想から枝分かれしたキリスト教思想とは異質の考え方が導入されていることが明らかになった。仏教において「愛」という用語は、執着や欲望との関連で理解され、ユダヤ・キリスト教における愛に見られる人格的な意味をもたない。しかしながら、ニュアンスの相違はあるが、おのれを超え出るところにおいてあらわれる世界という意味では、キリスト教的な愛の概念に親近するものが仏教的な慈悲にも見られることがわかった。研究代表者は2009年3月にドイツ、イタリアに赴き、エンデルス、ミュラー、ノイデッカーらの研究者と対話と討議を深め、またドイツ、イタリアの大学で研究発表をおこない、今後の共同研究の構想を練った。本研究は、比較思想、宗教対話、比較霊性の領域でもっとも重量なテーマの一つである愛をめぐる問題をテクストにそくして、文献学的に取り扱ったが、さらに今後の研究の方向として、実践的なテーマにも及ぶ関連研究への構想を着想することができ、将来の研究のためにも新たな地平を披くことができた。
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