2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520076
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
須藤 弘敏 Hirosaki University, 人文学部, 教授 (70124592)
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Keywords | 経絵 / 高麗 / 中世 / 法華経 |
Research Abstract |
19年度は、18年度に引き続き既収集写真資料の画像データベース化を進める作業を継続し、その過程でいくつかの課題を見出し、検討と分析を行った。平安時代から継続する傾向と、12世紀平安時代末から活発となる、東アジア中国朝鮮との交渉がやはり大きな影響をもたらしていることを再確認しつつ、その中で何が主要な問題なのかを明らかにするよう検討してきている。そして、その一端を2007年4月に韓国通度寺聖宝博物館で開催された第9回韓国佛教美術史学会での招待講演において発表し、韓国の研究者たちと積極的な意見交換を行った。 また、二つの重要な海外調査を実施した。一つは韓国に現存する経絵を集大成した「経典変相展」がソウル市国立中央博物館で開催されたため、鎌倉時代経絵の展開に大きな関係を持つ高麗経を集中して調査する好機として、同博物館に赴き高麗経展開の概要を十分に把握し得たことは、本研究にとってきわめて有意義だった。同じく韓国では仏教中央博物館を始めとするいくつもの機関で高麗経の調査を実施することができ、資料の充実をはかることができた。あわせて、韓国の研究者と情報交換や研究上の意見交換を交わすことができ、その点でもこの調査は大きな成果をあげられた。 二つ目の海外調査は、本研究の中心課題だった、合衆国Cleveland美術館およびNew York Public Library Spencer Collection所蔵の紺紙金字法華経の詳細な調査である。両館担当者の全面的な協力を得て、鎌倉時代経絵の中で最優作かつ最も複雑な背景を持つ、この2巻の紺紙金字法華経をほぼ同時に全巻詳細に調査することができ、研究を大きく進展させる多数の情報が得られた。特にCleveland美術館本はこれまで宋もしくは高麗の写経として扱われ、海外の多くの出版物でもそう記述されてきたが、明らかに日本で制作されたものであることを確認した。また、そうした比定が行われがちだった大陸風の絵画様式がなぜ意図的に行われたのか、そこにこそ鎌倉時代経絵を考える最大のポイントが存在することを確かめ得たことは、この調査を本研究の中心に据えた意図に十分応えるものだった。 今後は、こうした視点によって検討を進めるとともに、鎌倉時代の一般の経絵の展開をももう一度総括して、東アジア世界における経絵の展開と伝播交渉の様相を明確にしたい。
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