2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520088
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 大輔 Nagoya University, 大学院・文学研究科, 准教授 (00282541)
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Keywords | 美術史 |
Research Abstract |
本年度は、最終年度に当たるため、調査漏れ作品の点検とその調査、そして研究の総括を行った。金刀比羅宮の美術史料の中でも、庶民信仰の面から重要な『扁額縮図』について、未調査分の調査を行った。この結果、『扁額縮図』全八冊の写真資料を揃えることができた。その本格的な分析は今後を俟たねばならないが、幕末における金刀比羅宮の絵馬の所蔵状況が網羅的に把握できた。各帖の題箋については、これまであまり注目されてこなかったが、古代中国の楽器分類である八音、すなわち「金・石・絲・竹・匏・土・革・木」の八種類の素材を当てはめたものであることが実地の調査で判明した。 従って、台紙の形状の同一性とも考え合わせれば、逐次増補されたものではなく、現状に装丁された際には、すでに八冊セットだったと思われる。しかし、当初より八冊で企画されたものであるかどうかは即座には確言できない。というのも、今回の調査で、重複する図の存在が明らかになったからで、両図は画家の違いも感じさせる。 このため、『扁額縮図』は、少なくとも二人の画家が関わって、金刀比羅宮の絵馬を模写したものであることが分かる。但し、重複の図は一図のみであり、基本的に分担制作がうまくいっていることからすれば、一時に八冊を制作した可能性も濃い。一方の画家の画風が優れ、他方はやや筆力に劣るため、主任画家とその助手とも考えられる。 『扁額縮図」は文久年間(1861~1864)に行われた境内調査の成果であることを金比羅当局は認めている。幕末のこの時期には、ほかにも金比羅当局による宝物調査が頻繁に行われていることが知られている。これは江戸後期の博物学的関心が地方にも波及したことを示すとともに、おそらくは政情不安の世にあって、宝物の散逸を恐れた金比羅当局が積極的に帳簿作りを指導したことも理由の一つであろう。
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