2007 Fiscal Year Annual Research Report
古典的文芸作品にみられる音感覚についての比較美学的研究
Project/Area Number |
18520089
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
原 正幸 Hiroshima University, 大学院・総合科学研究科, 教授 (10092305)
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Keywords | 音感覚 / 自然音 / 聴覚世界 / 文芸的美意職 |
Research Abstract |
(1)日本人の独特の音感覚を育んで来た文芸的美意識の系譜を追跡する作業を開始。その一環として、山田流箏曲「小督」→謡曲「小督」→平家物語「小督」→源氏物語「賢木」→(「野の宮」段)と遡ることのできる、「松風」と音楽(雅楽)の響応(源泉は斎宮女御の和歌)についての分析を論文にまとめた。 (2)(1)の研究成果を2007年9月中国湖北省武漢音楽学院において開催された第7届(回)中日比較音楽国際学術研討会で発表。併せて「松風」に乗って聞えてくる音楽を通じて男女(夫婦)が再会するに至るという話の原型は、中国戦国時代の音楽伝説(百日奚「聴歌認妻」)に求められることを指摘し、同時にこの音楽伝説と日本の古典的文芸作品における音感覚との差異を明らかにした。 (3)音感覚との関わりの観点から源氏物語と並んで特筆さるべき松尾芭蕉の作品(発句・紀行文)の分析に着手した。 (4)昨度(立石寺)に続き、「奥の細道」の中核部分をなす地点(最上川、出羽三山、象潟)を実地調査し、前二者に関しては、鉄道・自動車道の出現にもかかわらず、芭蕉の時代とほぼ変わらぬと思われる地理的環境と聴覚世界を確認した。来年度は酒田から敦賀に至る日本海側の主要な地点を実地調査する予定。 (5)以上の研究成果に付随して、「松」を神木として崇める事例は既に万葉集に散見されるが、「松」の神聖視は古代中国(「詩経」)には認められず、少数民族(彜族)に認められること、万葉集でも詠み込まれている虫の鳴声に対する音感覚は西行(「山家集」)において集中的に詠み込まれるようになること等々の知見が得られた。
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