2006 Fiscal Year Annual Research Report
三善晃の作曲様式--器楽作品と声楽作品の相互流入による様式形成とその意義--
Project/Area Number |
18520101
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Musashino Academia Musicae |
Principal Investigator |
楢崎 洋子 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 教授 (50254264)
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Keywords | 三善 晃 / 作曲様式 / 器楽作品 / 声楽作品 / 20世紀音楽 |
Research Abstract |
三善作品に関する諸資料--出版楽譜、自筆譜、手稿譜、音盤、三善による自作についての解説および各種論考、三善作品についての批評、作品論等における言説--を収集し、それらの資料をもとに、三善のデビュー期の1950年代前半から1960年代半ばまでを対象に、器楽作品(オーケストラ作品、協奏曲、器楽アンサンブル作品、独奏曲)と声楽作品(独唱曲、合唱曲、劇音楽)のそれぞれの曲種における作曲者の方法意識を考察した。その結果、以下のような知見を得た。 この時期、ソナタを志向する器楽作品と、日本語のデクラメーション・スタイルの旋律化を志向する声楽作品との間には齟齬が見られるが、志向しながらも違和感を抱いていたソナタから逸脱する中で表れてくる三善の音楽語法においては、器楽作品と声楽作品のスタイルが互換的な関係になる。その互換的な関係は、最初の合唱作品《トルスII》(1961)に端的に表れている。《トルスII》は、三善が器楽アンサンブル作品においてもまだ用いていない打楽器、エレクトーンを用いている点で器楽的発想を有すると同時に、言葉を旋律化するさい、一つのシラブルに複数の声を同時に重ねて言葉の密度を濃くするという、その後の三善の声楽作品を特徴づける方法意識が顕著に表れている。この時期オペラ作品を構想しながらも完成させるには至らなかったのは、ヨーロッパのオペラにモデルを見出せないでいた、あるいは、ヨーロッパのオペラとは違うオペラを構想していたためだと考えられる。 この時期、放送詩劇と称される作品が継続的に書かれているのは、自由な作品イメージに向けて声と器楽、その他の音素材を複合させることのできる曲種であったためだと考えられる。三善の、声を伴う作品における声と器楽との関わりには、それまでの日本のオペラには括られない、独自のオペラの構想が潜在していると考えられる。
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Research Products
(1 results)