2007 Fiscal Year Annual Research Report
美術史記述における図版機能の歴史的・理論的研究 -近代フランスを中心として
Project/Area Number |
18520105
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
島本 浣 Kyoto Seika University, 芸術学部, 教授 (30154280)
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Keywords | 美術史 / 美学 / 美術図版 / 図版印刷 / フランス |
Research Abstract |
研究2年目になる平成19年度は、20世紀前半の美術書の資料収集とそのデータ化をはかった。予定していた図書館での調査以外に、パリの古書店を中心としで、充実した資料収集と調査を行うとができた。その結果、1920年から40年代(戦前まで)の美術書の重要なサンプルを資料として収集できた。本年度の新たな資料と、初年度の調査資料と合わせて、19世紀中葉かう20世紀前半の美術書における作品記述と図版の関係の分析を行い、そこから本研究の基本的輪郭を描くことができた。 19世紀の印刷革命により、それまでの文字情報による美術書(絵画を中心とする)は図版を組み入れていく。作品は図像ととも説明され、その結果、作品の言葉による画面描写の簡素化(前世紀までと比べ)が少しずつ進行していく。この傾向がはっきりしてくるのは19世紀末のことである。そして、20世紀に入り、美術書における図版は、ますます重要度を増していく。 20世紀に入り、印刷技術は加速度的に進歩し始めるが、美術書図版についていえば、色彩図版の普及、グラビア印刷の精密化として反映される.そのことにより、美術書における作品記述において、作品そのものの説明、つまり画面描写は図版に委ねられていくことになり、記述は作品の歴史性や意味性に重心を置くようになっていく。このことと美術史の方法論の展開とは深い関係をもつだろう。 また、20世紀初頭から挿入され始める作品の部分図は、作品記述に新しい視点を与えていく。さらに、色彩図版の挿入も、美術書に新しい役割を与える。 20世紀前半の色彩印刷は実際の色の再現からほどと遠いものがあるとはしても、色彩とともに作品イメージが伝えられることは、それまでの白黒図版でのイメージと大きな違いをもつ。図版が実際の作品へと近づこうとする動きは、逆に、作品そのものと美術史言説の間に大きな捻れを生むことになり、それは美術史の真の成立を促すひとつの契機ともなるだろう。 本年度に得られたこのような輪郭を、最終年度において、より精密なものとしていきたい。
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Research Products
(2 results)