2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18520135
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
石田 仁志 Toyo University, 文学部, 教授 (80232312)
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Keywords | 家族 / 女性文学 / ジェンダー |
Research Abstract |
今年度は当該課題の最終年度に当たるため、西暦1990年以降の女性作家作品に関する家族意識・性意識の分析を行った。(1)江國香織「きらきらひかる」(91)、多和田葉子「犬婿入り」(93)、川上弘美「蛇を踏む」(96)、桐野夏生「柔らかな頬」(99)、山本文緒「プラナリア」(00)、角田光代「空中庭園」(02)、桐野夏生「グロテスク」(03)、大橋希「セックス・レスキュー」(06)を取り上げた。また、関連する作品として、松浦理英子「ナチュラル・ウーマン」(87)、小川洋子「揚羽蝶の壊れる時」(88)、乃南アサ「幸福な朝食」(88)も考察対象とした。(a)女性作家の中での<家族意識>の希薄化がより鮮明になっている。対象としたほとんど全部の作品で、家族を形成することに対する強迫的な意識がない。中でも角田「空中庭園」や桐野「柔らかい頬」では、形の上では幸福そうな平凡な核家族でありながら、女性たちが家族に対して秘密を持ち、内面的には夫婦や親子の関係を維持できなくなっている姿が描き出されている。<家族>というものが共有の価値規範としては意味をなさない解体的な状況が伺える。(b)性意識という点では同性愛を肯定する傾向が顕著。江国、松浦の作品では女性作家の抱く恋愛観が典型的な異性愛主義から脱して、同性愛をも含めたより広範なものへと変容してきている。しかしその一方で、桐野や乃南、大橋の作品には自身の性欲や性意識の強さが社会からの差別や圧迫の中で歪められて、犯罪や狂気といった不幸へと転落していく女性の姿も描き出されてしまっている。その点では、性意識のバイアスは依然としてある程度の強度を持ったものとして女性作家に働いているといえる。
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