2008 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代における大衆消費社会の生成とメディアをめぐる総合研究
Project/Area Number |
18520149
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Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
安田 孝 Kobe Women's University, 文学部, 教授 (50117727)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 司雄 工学院大学, 工学部, 教授 (50296779)
馬場 伸彦 甲南女子大学, 文学部, 准教授 (00411843)
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Keywords | 国文学 / 文化研究 / メディア |
Research Abstract |
公開研究会を1回開催した(通算第7回)。萩原恭次郎の『死刑宣告』(1925・10)は活字の字体や大きさなどをさまざまに組み合わせ、視覚的効果を意図した詩集としてよく知られている。報告では、1920年前後にヨーロッパで起きたダダイズムの運動との関連を踏まえた上で、遠地輝武『夢と白骨との接吻』(1925・7)やエルンストラ・トルラー『燕の書』(村山知義訳。1925・8)などの同時代の試みと対比して、前衛芸術と印刷技術との関わりが解明された。1915年には邦文タイプライターが発明され、1929年には邦文写真植字機が実用化されるといった具合に、日本語の活字印刷もさまざまな開発が試みられた。村山知義は、当時ヨーロッパで広告などに用いられていたリノリューム・カットによる装丁や挿し絵を制作した。一方、高速印刷技術の進展により新聞・雑誌の大量部数の発行が可能になり、新聞社や出版社は読者を獲得するためにさまざまな戦略を企てていた。 以上のような報告とそれに対する討論を通して、次のような見解を確認した。『死刑宣告』の享受層はごく限られた少数の人であり、その実験的な試みもいわば仲間内の評価に留まり、広く社会に影響を与えたわけではない。印刷技術の進展と言うことで、『キング』のような大衆を読者に想定したものと同列に論じることは出来ない。 本研究は、メディアが尖端的なテクノロジーを用いて消費者としての大衆を立ち上げていく諸相の解明に取り組んできたが、少数の実験的な試みと大衆獲得のための戦略とを関係付けるのではなく、同時並存の事象として考察する必要がある。
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Research Products
(1 results)