2008 Fiscal Year Annual Research Report
新しい『ファウスト』研究における〈道化論〉的視座の可能性
Project/Area Number |
18520160
|
Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
田中 岩男 Hirosaki University, 人文学部, 教授 (70091618)
|
Keywords | 道化 / トリックスター / 譜誌 |
Research Abstract |
研究の最終年度にあたり、研究成果を2本の論文にまとめた(本年度中に発表の予定)。以下、論文の要旨を紹介する形で、本研究の成果および意義について手短に報告したい。 ○「道化の知恵-『ファウスト第二部』第1幕、〈宮廷の場〉をめぐって」 従来『ファウスト』研究において軽視されてきた〈宮廷の場〉には、メフィストが文字通り「道化」として登場し大活躍する。「道化」を導入することによってゲーテは、多層化する近代世界の本質を描き出そうとした、と見ることができる。具体的には、紙幣の発行に象徴される、「新しい経済」の浸透による「旧体制」の崩壊と終焉である。従来「非政治的」なゲーテを象徴するもののように見られていた「仮装舞踏会」の深層で、きわめて「政治的・社会的」なドラマが進行していることをテクストに即して明らかにした。 ○「トリックスターの彷徨-〈古典的ヴァルプルギスの夜〉のホムンクルス」 本論文は、ホムンクルスを神話的「トリックスター」と捉えることで『ファウスト第二部』全体にとって「古典的ヴァルプルギスの夜」が持つ意義を解明しようとする。すなわち、トリックスターとしてのホムンクルスが、神話的世界を経巡ることによって、豊饒で多様な始原の自然が繰り広げられる。この多産で豊饒な自然ないし宇宙の姿が描かれることなくして、劇の終曲におけるファウストの「救済」もありえないであろう。「近代的人間」ファウストの救済とは、「永遠にして女性的なもの」に象徴されるこの絶えず生み続ける「自然」による「救い」と見ることができるからである。』その意味で、聖古典的ヴァルプルギスの夜」も、そこで活躍するホムンクルスの意義も、強調しすぎることはない。 道化 トリックスター 譜誌
|