2006 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ合衆国における『ハックルベリー・フィン』論争と「文化戦争」
Project/Area Number |
18520164
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井川 眞砂 東北大学, 大学院国際文化研究科, 教授 (30104730)
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Keywords | アメリカ合衆国 / アメリカ文学 / マーク・トウェイン / 『ハックルベリー・フィン』 / 多文化主義 / 「文化戦争」 / 人種 / 文学教育 |
Research Abstract |
アメリカ文学を代表する傑作として謳われてきたマーク・トウェイン作『ハックルベリー・フィンの冒険』(Mark Twain, Adventures of Huckleberry Finn, 1885)をめぐる人種主義論争を、20世紀末アメリカ合衆国の「文化戦争」の中において考察し、多文化社会を迎えた現代アメリカ社会における本作品の受容の変化とその意味を明らかにしようとする。本年度の実績は以下のとおりである。 1)現代アメリカ社会における本作品の受容の変化をとらえるとともに、本人種主義論争の中で得られた批評史上の大きな成果を指摘した。1957年にニューヨーク市教育委員会が本作品を認定教科書リストから排除して以来、本作品をめぐる人種主義論争が続く中、その間に得られた批評史上の大きな成果とは、トウェインの黒人描写の両義性を積極的に評価する解釈が提示された(J.CoxやF.Robinson他)ことである。こうした新たな読みを、筆者は、社会学者G.Rawickによる元奴隷のナラティヴ資料との比較検討から補強・補足し(G.Rawick, From Sundown to Sunup, 1972)、黒人奴隷の人格の両義性を描写した19世紀アメリカの白人作家トウェインの先駆性を指摘した。つまり、奴隷の人格とはそもそも「相反する両義性を持つものと考えなければならない」のであり、「まったくのサンボであるか、あるいは純然たる反乱者であるかの議論は、単なる架空の抽象論」にすぎぬとする読みである。今日の読者の批判はそのサンボ的側面の描写に向けられているといえよう。 2)本研究課題に関連する人種研究の著書(=白人性研究の古典的著書)の翻訳を出版した。D・R・ローディガー著、小原豊志、竹中興慈、井川眞砂、落合明子共訳『アメリカにおける白人意識の構築』(明石書店、2006)である。白人意識の研究ないしは白人性の研究(=Whiteness Studies)は、昨今、学際的分野の研究として進められており、その分野における古典的な地位を占める著書(David R.Roediger, The Wages of Whiteness, 1999)の翻訳を出版した。著者ローディガーは先述のローウィックと直接議論する中で本著の主題を考察する大きなヒントを得たという。 3)上記以外に、本研究課題に必要と思われる関連図書や資料の収集・入手に努めた。
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Research Products
(6 results)