2006 Fiscal Year Annual Research Report
ヴラジーミル・ナボコフの諸作品を中心として見た20世紀文学・文化研究方法の構築
Project/Area Number |
18520177
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 外国語学部, 教授 (80154516)
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Keywords | ナボコフ / 20世紀 / 批評理論 / 文化理論 / 文学理論 |
Research Abstract |
平成18年度中に「光と陰翳-ヴラジーミル・ナボコフの『暗闇のなかの笑い』」(『東京外国語大学論集』第72号)と「鏡と影-ヴラジーミル・ナボコフの『青白い炎』」(『東京外国語大学論集』第73号)という二篇の論文を発表し、さらに、「スクリーンが映したテクスト-ヴラジーミル・ナボコフの『ロリータ-脚本』をめぐって」と題する研究発表を行なった(日本英文学会関東支部第一回例会、平成18年10月28日)。 これらの研究成果によって、ナボコフの虚構作品の文学的テクストとしての独自性が解明されるとともに、20世紀思想の潮流におけるその位置づけも試みられた。そこにあっては、未来という究極の不確定性にいかに対処するべきかという課題が、最重要性を有している。時間的・空間的広がりを備えたものとして把捉された人間の意識の美学的形象化というナボコフのテクストの特性は、文学者としての彼の形成期であった1920年代における視覚藝術の傾向、とくに、ひとり彼のみならず同時代の感性に計り知れぬほどの刺戟と昂奮を与えつつあった映画から多くの着想を得ていると考えることができる。テクストの全般的様相を特徴づけているコントラストの階調や、極端に短い章の結びつきによって生じる場面と視点の転換などに、その種の影響を見て取ることが可能であろう。文学的テクストと映像との関係は、ナボコフ自身が脚本家として関与した映画『ロリータ』(スタンリー・クーブリック監督作品)において、よりいっそう錯綜した問題となって浮上してくる。それらの点を含めて、多岐にわたる理論的展開の可能性にも検討を加えた。
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