2008 Fiscal Year Annual Research Report
近代初期英国における放浪文学と社会的変動との関連性についての研究
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18520190
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
滝川 睦 Nagoya University, 文学研究科, 教授 (90179573)
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Keywords | 近代初期英国 / 放浪文学 / 社会的変動 / 農民暴動 / 悪漢文学 / 見せ物 / 女性化 / 演劇排撃論 |
Research Abstract |
本年度の研究業績は、近代初期英国における放浪文学と社会的変動との関連性について、ShakespeareのCoriolanus (1608?)などの劇作品や悪漢文学を分析し、さらに前年度までの研究を総合することによって、以下の諸点を解明したことである。 1. 近代初期英国の放浪文学においては、CoriolanusにおけるMidlands地方の農民暴動(1607)の表象に具体化されているように、放浪を生み出すきっかけとなった経済的・政治的要因が、転移・歪曲される形で表象されること。Coriolanusの場合、農民暴動と結びついた放浪の影は、貧困にあえぐローマ市民ではなく、執政官候補者Coriolanusに投影されている。 2. 近代初期英国の放浪文学に属する劇作品においては、メタシアター的場面で当時の放浪者たちが弄した演劇的術策やジェスチュアーが援用されていること。Coriolanusの場合、主人公が執政官になるために「広場」で傷口を披露するという「見せ物」は、Thomas HarmanのA Caveat for Commmon Cursitors Vulgarly Called Vagabonds (1566)などの悪漢文学において暴かれる放浪者=トリックスターの手管と不可分の関係にある。 3. 近代初期英国の放浪文学において描かれる放浪と、当時の社会が抱いていた女性化に対する不安が結びついていること。King Lear(1605-06)やCoriolanusにおいては、演劇排撃論で提起される、女装が招来する女性化に対する不安と、演劇と放浪に共有される周縁性が共鳴し、放浪という現象と、性やジェンダーの不安定性と結びついている。
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Research Products
(1 results)