2006 Fiscal Year Annual Research Report
ルイ=フェルディナン・セリーヌと同時代フランスの大衆雑誌
Project/Area Number |
18520212
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
木下 樹親 九州大学, 大学院人文科学研究院, 専門研究員 (50380697)
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Keywords | セリーヌ / フランス文学 / フランス大衆雑誌 |
Research Abstract |
初年度は,本研究課題が対象とする1900年からの20年間に刊行された基礎資料の収集と,その前半期刊行分の読解・分析の2点を到達目標に掲げた。 当初の計画どおり,資料体を(1)「ジュ・セ・トゥ」,(2)「レクチュール・プール・トゥス」,(3)「リリュストラシオン」3誌とし,巻号の調査・収集を行った。(1)はフランス国立図書館がインターネットで公開しているPDFファイルの形で1905年の創刊号から1920年刊行分までをほぼ入手できた。(2)は1902年から1908年の刊行号の合本を入手。(3)は全号(1843-1944年刊行分)を所蔵している福岡大学図書館で閲覧中である。 現在までの読解の結果,着目すべき記事を最も多く含む資料は(1)だと判断した。とりわけ,次の3点の発見は大きな収穫であった。1.天文学者兼小説家カミーユ・フラマリオンによる科学啓蒙的記事の頻出。2.モンマルトルの猟奇恐怖劇場グラン・ギニョルの作家アンドレ・ド・ロルドの戯曲の掲載。3.メッチニコフによる「科学の殉難者」と題された記事(1909年5月号)。フラマリオンはセリーヌの第2長編小説『なしくずしの死』でも言及されているが,気球飛行の紀行文や天変地異による終末論的エッセイなど,同小説のいくつかの重要シーンと密接な関係をもつ記事が少なくない。グラン・ギニョル劇もまた同小説で言及されるだけでなく,セリーヌの全作品に通底する<おぞましさ>や精神病理学的知見の源のひとつであり,看過できない資料である。一方,3の記事には産褥熱の予防に生涯を捧げたハンガリーの医師ゼンメルワイスへの言及が見られる。セリーヌはこの医師について医学博士号論文を執筆するのだが(1924年),着想の契機が論じられたことはこれまでなかった。もしそれをこの記事に求めることができるならば,セリーヌの衛生学的観点のルーツでもあるこの重要な博士号論文の研究への貢献が期待できるであろう。
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