2007 Fiscal Year Annual Research Report
トポス「水の精の物語」の身体論的研究-ドイツ・後期ロマン派以降を中心に-
Project/Area Number |
18520213
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小黒 康正 Kyushu University, 大学院・人文科学研究院, 准教授 (10294852)
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Keywords | ドイツ文学 / フケー / ウンディーネ / ホメロス / ハインリヒ・ハイネ / ローレライ / メールヒェン / 翻訳 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、本年度も、ドイツ・ロマン派における水の精の身体論的問題に集中的に取り組んだ。 論文「メールヒェンのパロディー-〈ハインリヒ・ハイネのローレライ〉」では、ローレライ「伝説」という新しい伝説が流布するときに、ハイネの偽装が決定的な役割を演じたことを明らかにした。偽装の内実は、捏造された二重の憑依によって、ハイネのバラーデが「私」による枠構造をつくり、メールヒェンを伝承することそれ自体を扱った点にある。 次ぎに、論文「水の女をめぐる「翻訳」論ホメロス『オデュッセイア』とフケー『ウンディーネ』」では、ドイツのピグマリオンとも称すべき騎士フルトブラントとセイレンの後商であるウンディーネとによる異類婚姻譚が、旧来のメールヒェンとは距離をとりつつも、最後に不在をめぐる民衆メールヒェンを装うことを明らかにした。偽装を行う創作メールヒェンでは、かつて物質存在を周辺化してきた人間存在が、いまや汚れた古い魂の持ち主として、逆に周辺化されていく。こうしてフケーなりの「新しい神話」の模索は、「新しい〈魂の獲得物語〉」から「〈新しい魂〉の獲得物語」へと変わり、そして最終的に「〈新しい魂〉の喪失物語」へと更なる変容を遂げていく。 なお、ハイネの「ローレライ」であれ、フケー『ウンディーネ』であれ、複合的誘惑を行使する新しい「水の精」が決定的役割を演じる。この点を明らかにしたことは、今年度最大の研究成果として、今後の研究において大きな意味をなすであろう。
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Research Products
(2 results)