2008 Fiscal Year Annual Research Report
トポス「水の精の物語」の身体論的研究 -ドイツ・後期ロマン派以降を中心に-
Project/Area Number |
18520213
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小黒 康正 Kyushu University, 大学院・人文科学研究院, 准教授 (10294852)
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Keywords | ドイツ文学 / アイヒェンドルフ / フケー / ウンディーネ / クライスト / 『水の男とセイレン』 / アンデルセン / 水の女 |
Research Abstract |
本年度は、ドイツ・ロマン派における水の精の身体論的問題に関し、その中核をなすアイヒェンドルフ、並びに新たな展開の萌芽となるクライストに集中的に取り組み、以下のような研究成果を得た。 「水の女」の文学的系譜において質量ともに異彩を放つアイヒェンドルフ文学では、水底からの誘惑が「書く」ことの根源的契機となり、否定すべき対象が自己の創作基盤を培うという矛盾のもとでポエジー言語が立ち上がってくる。 また、フケーが1811年、『ウンディーネ』において「陸の男」と「水の女」の融和を描ききったのに対して、クライストは同年、『水の男とセイレン』において両者の新たな対峙を問題にした。アンデルセン『人魚姫』以降、「水の女」と「陸の男」の言語コミュニケーションが根本的に揺らぎ、両者の関係が修復しがたい断絶へと陥っていく中で、新たな「翻訳」不可能性によって更なる文学的挑戦が促され、「水の女」をめぐる新しいポエジーが次々に立ち上がってくる。つまり、沈黙する「水の女」の物語が文学の表現媒質としての言語の原理的機能不全性を浮上させるのであった。クライスト『水の男とセイレン』はこうした新たな状況のまさに嚆矢に他ならない。 「水の女」の文学的系譜は、「他者」を「自己」の言語に取り込み、未知なるものを既知なるものに変換することで、物語という体裁をなしていく。もっともこうした言語化によってすべてが表現可能とはならず、むしろ言語外経験を言語化する際の矛盾が露わになることも少なくない。文学とは、言語体系の編み目をくぐり抜ける「他者」を言語的に捉えようとする弛まぬ挑戦に他ならない。このような言語的挑戦は見方によっては「他者」の周辺をめぐる「堂々めぐり」の観をなす。しかし、内実は螺旋状、もしくはそれ以上に複雑な展開をとげ、「自己」と「他者」の境界という「場」において、新しいポエジー言語が次々に立ち上がってくるのである。
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Research Products
(4 results)