2006 Fiscal Year Annual Research Report
現代社会における性的マイノリティの捏造と解放にかかわるトマス・ハーディ研究
Project/Area Number |
18520227
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
亀澤 美由紀 首都大学東京, 基礎教育センター, 准教授 (60279635)
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Keywords | 英米文学 / ジェンダー論 |
Research Abstract |
18年度の成果は以下の論文にまとめられている。 1.「男同士の絆の向こう-『テス』の三角形」(『日本ハーディ協会五〇周年記念論集、現在査読中) 本論文はイヴ・K・セジウィックのホモソーシャル連続体の概念を『テス』分析に応用し、男同士の絆がジェンダー支配に及ぼす力を論じたものである。論文前半は、女を交換することによって男同士の絆を結び、男性権力を獲得するというルールに対するアレックとエンジェルの反応を比較分析することに焦点をあてている。一方、論の後半は「アレック-テス-エンジェル」の三角形から新たな連続体-成人男性と少女の絆の連続体-が浮かび上がってくる様子を明らかにした。これはセジウィックの理論をキンケイドにつなぎ、それをバーディ研究に応用したものであり、ヴィクトリア朝文学研究から現代社会分析へと橋渡しをする重要な部分である。 2.「テス批評にみるモラル・パニック-ペドフォビアの触手」(『ハーディ研究』33号、現在査読中) 1が文学研究から現代社会分析への橋渡しであるのに対して、この論文は正面から現代社会分析を試みたものである。対象にしたのはジェイムズ・キンケイドのテス論(1990,1992)である。キンケイドは、強力なペドフォビア(小児性愛嫌悪)によって成人とこどもの間の絆の連続体に断絶が発生し、ペドファイルが実体化されていると主張するのだが、彼の論文の改変のプロセスを辿ると、キンケイドのことばそのものもペドフォビアによって刻印されていることがわかる。ペドフォビアを告発する批評家のことばが、批評家自身の内部に巣食うペドフォビアを語りだすという、書き手とテクストの主客逆転の様相をあぶりだした論文である。 以上、18年度は『テス』を中心として、(1)ホモソーシャル連続体概念の文学への実践的応用、(2)そこから浮かび上がる「健全な市民/小児性愛者」を脱構築する新たな連続体概念による現代社会分析を行い、十分な研究成果をおさめることができた。
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