2007 Fiscal Year Annual Research Report
近現代英米文学における環太平洋異文化表象の思想史的研究
Project/Area Number |
18520232
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
新井 英永 Osaka Prefecture University, 人間社会学部, 准教授 (00212598)
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Keywords | D・H・ロレンス / 『セント・モア』 / 「アジアの中心」 / 「野生のアメリカ」 / 想像界・象徴界・現実界 / ネイティヴィスト・モダニズム / ラカン / ジジェク / ウォルター・ベン・マイケルズ |
Research Abstract |
英国のモダニズム作家D・H・ロレンスがイギリスとアメリカ合衆国を主舞台として書いた中編小説『セント・モア』(1925)における異文化表象、具体的には「アジアの中心」と「野生のアメリカ」の意味と機能を、ジャック・ラカン/スラヴォイ・ジジェクやウォルター・ベン・マイケルズの概念を参照しながら考察した。 まず、ラカンあるいはジジェクの「現実界」ないし「現実的なもの」という概念により、主人公ルウが雄馬セント・モアの転倒後に見る「悪のヴィジョン」は、彼女がそれまで慣れ親しんできた社会の象徴的秩序に走る亀裂、もしくはそれを穿っ穴に直面していることを意味すると指摘した。また、ラカン/ジジェクによる想像界・象徴界・現実界の観点に立ち、ルウにとっての雄馬セント・モアをはじめとする三つの対象は、それぞれ想像界の象徴化(セント・モア)、象徴界の現実化(「アジアの中心」)、現実界の想像化(野生のアメリカ」)の過程で生じていること、ならびに、「アジアの中心」という表象はイギリスとアメリカを一時的に結ぶ媒体であること、を明らかにした。 さらに、マイケルズの提起する「ネイティヴィスト・モダニズム」の言説と『セント・モア』の類似と差異を、マイケルズ自身によるこの作品の読解を修正しつつ分析した。その結果、ロレンスのこの中編小説は、「ネイティヴィズムを欠いたネイティヴィスト・モダニズム」のテクストであると同時に、インターナショナルな契機が物語の展開により閉じられているがゆえに、インターナショナリズムを欠いたインターナショナル・モダニズムのテクストでもあると言えることが分かった。
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Research Products
(1 results)