2009 Fiscal Year Annual Research Report
近現代英米文学における環太平洋異文化表象の思想史的研究
Project/Area Number |
18520232
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
新井 英永 Osaka Prefecture University, 人間社会学部, 准教授 (00212598)
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Keywords | D・H・ロレンス / 環太平洋地域 / 批評理論 / 旅 / 異文化体験 / ドゥルーズ=ガタリ / アンチ・オイディプス / 逃走 |
Research Abstract |
英国のモダニズム作家D・H・ロレンス(1885-1930)の後期小説、とりわけ環太平洋地域を舞台とした小説を、批評理論ないし現代思想と共鳴あるいは対話、場合によっては対立させることにより、それぞれのテクストの新たな読解を提出する試みを、英語による博士論文にまとめた。内容的には、前年度に出版した単著『D・H・ロレンスと批評理論-後期小説の再評価』(国書刊行会)と大きく変わらないが、『セント・モア』における自然と文明の概念を再考した第六章、ならびに『セント・モア』における「アジアの中心」という表象がイギリスとアメリカを一時的に結ぶ媒体であることを主張した第七章は、割愛せざるをえなかった。海外の投稿先を視野に入れ、いずれ英語版として練り直したい。 一方、ロレンス以外の作家の研究も推進したかったところであるが、ロレンスの異文化体験の旅の基底にある彼の初期作品を検討することは、より深い次元でロレンスさらには英文学の異文化表象を捉える端緒になるのではという判断から、彼の自伝的小説『息子と恋人』(1913)を論じた。「過剰なる生と認識の悲劇としての『息子と恋人』-「オイディプス」からの逃走」というタイトルのこの論考の主張は以下のとおりである。ドゥルーズ=ガタリの視座から『息子と恋人』を読むことにより、この小説が現代のオイディプスの悲劇的(=非精神分析的)物語からアンチ・オイディプス的(=非教養小説的)物語へと転回する思想を胚胎させていることが分かる。つまり、母親の死後主人公ポールを待っているのは、彼女の影響に押しつぶされだ独身生活でも、その影響を脱した立派な社会人としての生活でもなく、オイディプス神話に彩られた近代資本主義社会のイデオロギー装置を疑い批判して行く旅である。
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Research Products
(2 results)