2007 Fiscal Year Annual Research Report
プルーストにおける「忘却」の導入による作品の再構築-第六巻の位置
Project/Area Number |
18520243
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
徳田 陽彦 Waseda University, 政治経済学術院, 教授 (40126602)
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Keywords | プルースト / 物語構造 / アルベルチーヌの導入 / 忘却と無意志的記憶 |
Research Abstract |
マルセル・プルーストは第一巻を1913年秋に出版したが、この巻を書いた時点では、アルベルチーヌをまだ創造していなかった。続巻は、14年5月、作者の愛人であった秘書アゴスティネリの突然の事故死と第一次世界大戦のためすぐには中断されてしまった。プルーストは愛人の死に動揺して、続巻の校正刷を修正する気力もなくなってしまったと友人たちに書いている。今回は、この愛人の死と1905年秋に生じた、人生最愛の人、母親の死をめぐる情況とそこでの作家プルーストの反応を主に書簡集を資料として検討した。とりわけ「忘却」をプルーストは実人生のなかで、どのように考えていたか、が関心点であった。10年近く前の母の死に際して、プルーストは深く絶望し、サナトリウムに入院して治療を受けるほどであった。しかし特徴的であったのは、己の悲しみに充ちた心情や自分が母親の死を招いたという罪悪感を親しい友人たちだけに吐露するばかりでなく、サナトリウム入院中もスノッブとしての社交精神を発揮して、文壇で活躍する文学者にも書簡を送ったのであった。また一周忌までの書簡には、「忘却」というコトバはほとんど用いられていない。一方、14年のアゴスティネリの死は作者にプルーストに「忘却」を創造する機会を与えた。そこには、すでに第一巻を出版し、ある程度の名声を得た小説家としてプルーストが巌然としていたと言わねばならない。とりわけNRFグループの総帥ジッドからの以前出版を拒否した詫びと改めてNRFから出版したいという申し出は、小説家プルーストに自信と名誉心をもたらした。当時の文壇の中心的な勢力から認められた意味は大きい。ジッドにも対等な立場で書簡を送っている。作家となったプルーストは愛人の死をめぐる自らの内面を悲しみに溺れることはあっても、それさえも容赦なく観察して、「忘却」のテーマ発見に至ったのである。以上の内容を学部の紀要に書いた。
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Research Products
(1 results)